バイオリンとフィドルの違いは? という疑問に,発祥の経緯から回答してみようと思います.歴史を調べてみました.

バイオリンは貴族,フィドルは民衆の楽器.このように書くと,「上流階級から一般民衆へ広がったバイオリンが,地方で民謡などを演奏するようになって,フィドルって別名がついたんだな」という誤解を招きがちですが,事実はちょっと違うようです.

1.バイオリン誕生

弦を弓で擦って音を出す,いわゆる擦弦楽器は,12世紀に,アジアの騎馬民族(『スーホの白い馬』の世界ですよ!)からヨーロッパにもたらされ,各地方の民衆楽器として受け入れられたようです.

その後,地域ごとに多種多様な発展を遂げ,ヴィオール族,ヴァイオリン族など数多くの楽器群が出現します.その中から,いわば勝ち抜き戦で,他の同族楽器の長所を吸収しつつ生まれてきたのが,イタリア地区代表のヴィオリーノと言われています.(いいや!バイオリンは,他と全く無関係に,奇跡のように出現したんだ!っていう伝説めいた話もありますが,先行する文化の影響を受けなかったハズがない)

ヴィオリーノ(バイオリン)は,16世紀の出現当時から,ほぼ完成されたスタイルで,抜群の機能性を買われて,次第に上流社会へ進出します.つまりクラシック音楽への道です.

2.フィドルの事情

一方,民衆も,バイオリンの母体となった楽器群を使って,自分たちの音楽を奏で続けます.このとき各地で使用された,多様な弦楽器の中にあったのが,イングランドのフィドル,であったり,ドイツのガイゲやフィーデル,フランスのヴィエルだったりします.いずれも平べったい箱のようなボディの外見ですが,弦を擦って音を出す点で,奏法自体は今のバイオリンと非常に似ていました.

そのため,後に機能性に優れたバイオリンが徐々に地方にも浸透して,地元の楽器に取って代わったときに,同じ擦弦楽器なので,もともとその土地で使われていた奏法があっさり適応可能だったと思われます.

もし,バイオリンが地方に浸透した際に,新しい奏法が導入されていたら,名実ともに新しい文化として,「バイオリン」という名前が定着していたかもしれません.しかし,実際は,奏法や使い方は旧来の楽器と変わらず,単に以前より性能の良い楽器として使われたため,フィドル,ガイゲなど,古来の楽器名が引き継がれたのでしょう(楽器の正式名称なんてプレイヤーもリスナーも気にしないもんです).その後,イングランドの「フィドル」が,民族系音楽の「バイオリン」の総称になったわけです.

ですから,ややもすれば,「上流階級の楽器バイオリンが,下々の民族音楽にまで入り込んで来て古い楽器フィドルを駆逐してしもうた」という錯覚に陥りますが,こういう歴史を見ると,優秀な楽器が洗練されて,民衆の手元にUターンして戻ってきたというようなニュアンスじゃありませんか?

そんな経緯をみると,「フィドル」と一口に言っても,地域によって全く別の音楽史を背景にしているので,束ねて語るのは乱暴かもしれません.

3.バイオリンとフィドルの関係

バイオリンは最初からハイソな楽器だったわけではないようです.

バイオリン,生まれて100年ほど,16世紀の後半までは,一般に芸術音楽のハイソな楽器なというよりむしろ,音が大きすぎて下品な低俗楽器とみなされていたようです.

当時は,宮廷や室内の芸術音楽は,繊細な音のヴィオラ・ダ・ガンバ(古楽器のひとつ).一方,舞踏教室の教師がダンスを教えるときに弾いたり,低階級の楽師が舞踏会の伴奏で用いたのがバイオリン.

楽器に上品も下品も無いって話です.あるのは好き嫌いだけ.

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参考文献:

   

  • 古学への招待編纂委員会(編).『クラシック音楽の発見 古学への招待』,立風書房,1996.
  • 藤原義章(著).『ヴァイオリンとヴィオラの小百科』,春秋社,1999.
  • 大島豊(監).『ユーロ・ルーツ・ポップ・サーフィン』,音楽之友社, 1999.
  • マルク・パンシェルル[著] ,大久保和郎訳.『ヴァイオリン』,白水社, 1967.