8月4日は「バヨリンの日」.

楽器工房を開いている友人が,これまでの人生の大半を費やして,「フレットバイオリン」なるものを作成したというので,大笑いした後,冷やかし半分に,「試奏してやるよ」と,上から申し出たところ,存外に改まって「是非に」と頼まれたので,真面目にレビューしてみます.

さて,フレットバイオリン.

調べるてみると,希少なのは確かですが,世にも珍しい,というわけではなくて,例えば,"fretted violin" で検索をかけるとアメリカを中心に,ある程度ヒットします.要するに,バイオリンの指板にギターのようにフレットが付いているというシロモノです.

今回,試奏するにあたって,制作者の工房に押しかけたところ,何本かフレットバイオリンの完成品が並ぶ中に,キラッと輝くように,さらに異色なバイオリンが目にとまったので,「誰が何と言おうとこれを弾く」と高らかに宣言して持ち帰ってきました.フレット付き,さらに5弦のレアアイテム.

fret-violin-5strings.jpg

さて,まずは,「フレット付き」の特徴を確認してみよう,ということで,普通に音階を弾いてみます.さらに,音程が固定されることは分かり切っているので,ピッチコントロールが比較的難しい重音(ダブルストップ)でのパフォーマンスを確かめてみました.要するに,簡単に正しい音程で弾けるかどうか試したわけです.

当たり前ですけど,音程に気をつけなくても,ピッチは狂いません.狂うとすれば半音一気に狂いますが,この場合は,音程が狂ったのではなく,単に「押さえるところを間違えた」というべきでしょうね.

ところで,バイオリンは,ある程度,腕があっても,きっちり2つの音程をコントロールしたまま奇麗な重音を響かせる演奏――例えば,シンセサイザーが担当する「ストリングス」のような演奏――には向かない楽器です.もともと弦を2本押さえるために,手の形を不自然に捻るわけですから,その状態で指先の微妙な位置を長時間にわたって固定し続けるのは,そりゃ難しい.しかし,そこにフレットがあれば,弦を2本同時に押さえても,指先の位置はある程度,アバウトでいいわけです.そんなわけで,重音の演奏が楽! ということが分かりました.まぁ,頭で考えれば不思議ではありませんが,実際にやってみると,「おや,これは便利!」という感想です.

で,次に懸念事項なんですが,

簡単に言うと,フレットが「ない」というバイオリンの特徴が,フレットを付けることで消されてしまう恐れが大きいわけです.具体的には,フレットの中で細かく指を動かしても,音程は変わらないと考えられるので,フレットの中での指先の細かい震えによる「ビブラート」はちゃんとかかるのか? それから,音程を滑らかに変化させる「グリッサンド」や「スライド」は,フレットがなければ滑らかですが,フレットがある状態では,ガタガタとした階段状の音程変化になってしまうのでは?

まぁ,ひとつ試してみましょう.

まず,ビブラート.

......は,良く見ると,上に挙げた動画で十分にかかっているのが確認できたので割愛.なんとびっくりですが,フレットごしでも,十分に,というより,普通のバイオリンと全く何も変わらずに,ビブラートがかかります.特に演奏法も変わりません.

グリッサンドはどうでしょうか? まずはグネグネとグリスをかけまくって音を出してみます.

驚いたことにこちらも,ほとんど影響がありません.グリッサンドでもスライドでも,音がガタガタに変化することなく,スムーズです.ちなみに,音を変化させるときの始点と終点が決まっているのがスライド,そうではなくて,装飾やニュアンスとしてなめらかに音を滑らせるのがグリッサンドです.まぁ,用語なんかどうでもいいや.とにかく,両方できます.

民族音楽なんかによくある,半音下から音を出す弾き方も試してみます.

違和感なく弾けました.

んじゃ,行けそうなので,ひとつジャズっぽいバイオリンのフレーズを弾いてみましょう.

と,いうことで,フレットバイオリンは,少なくとも,ぱっと弾いてみた範囲では,問題なく使えそうだ,と結論したところで,以上です.

......せっかくなので,友人の工房ショップ『エルデ楽器』を紹介しておきます.あと,バヨリンの日なんてありませんから,念のため.......8/28は「バイオリンの日」らしいですけど.