何度も断っておきますが,この「バイオリンの買い方」の一連のエントリは,あくまで趣味の範囲で,できるだけ廉価にバイオリンを手に入れたい人に向けたものであって,決して「なるべく音のよいバイオリンを見分けたいんざます」というニーズには応えてないのでよろしく.

さて,下限の価格帯で語るのなら,バイオリン職人が作った一点ものではなくて,流れ作業で製作された工業製品を買うことになります.工業製品,というとイメージ悪いかもしれませんが,別になんの支障もありません.バイオリン製作の約500年の歴史の中で,このアコースティック・マシンの構造や製法は,かなりがっちりと決められているので,ちゃんとしたメーカの製品なら,型に合わせて一定の寸法で作られていて,品質管理もきちんとなされているはずです.むしろ,下手な職人のハンドメイドより信頼できます.

とはいえ,バイオリンの原材料は木ですから一様ではありません.また,全工程を機械化できるわけでもありません.メーカーから卸された商品の何%かには,我々購入者にとって遠慮したい出来のモノも含まれるでしょう.また,安さだけを追求した急造の工場の中には,本当に酷い製品を作るところがあります.そんなものを仕入れてしまった小売店も「しまった.こんなのつかまされた!」と慌てて,ざっくりと割引して,良くわかってなさそうな客にさっさと売りつけます.そんなわけで,下限の価格帯のさらに下限を攻めすぎて逸脱すると,変なバイオリンに出会ってしまいます.

そんなこんなで,学生なんかが,「リサイクルショップでバイオリン買ったっすー.なんと5000」と戦果を自慢するような場合,楽器のグレード云々以前に,道具としての基本的な機能に欠陥があって,「使えない」ということになりがちです.つまり,音が良いとか悪いとか,大きいとか小さい以前に,チューニングが合わないとか,弦が張れないといったレベルの問題が起こります.(家具職人かなんかを大勢寄せ集めた工場で,形だけそれっぽくなるように作られているんじゃないかと想像します)

こういうバイオリンモドキを見分けるポイントは,糸巻きの部分の不具合です.弦が集まって,ペグにまかれている部分,このスペースを糸倉というんですが,安くて使えないという楽器は,ここが酷い.ペグ穴が広すぎて弦が巻き戻ってしまう,ペグをねじ込んでみて初めて亀裂があることに気づいた,ペグ穴の位置が悪くて弦同士が干渉する, etc,etc....安い楽器のこの部分で起こるトラブルには,枚挙に暇がありません.バイオリンは,高音で歌う楽器ですから,他の楽器と比べて大きな張力で弦を張る必要があります.従って,弦を支える両端の機構がしっかりしていないと,演奏どころではないわけです.「糸倉」.注意して観察してくださいな.

次に,メーカの「手抜き」にも要注意です.

上では,スキルのないメーカによる粗悪品の特徴について言及しましたが,もうひとつ,何度か見たことのあるパターンが,廉価で販売しても儲けを出すために,生産コストを削りすぎて生じる問題です.とはいっても,例えば,原材料にベニヤ材を使うといった公明正大なコスト削減は,必ずしも悪いことではありません.我々は,それを承知の上で,楽器のグレードにあった使い方をすれば済むだけの話です.ベニヤなら雨に濡らそうが何しようが問題なし.そんな「使い勝手の良さ」だってあります.問題は,眼に見えない部分が,こっそり手抜きされている場合です.

膠(にかわ)をケチる.あるいは,膠を塗布する工程が手抜き管理されている.これをやられるのが一番やばい.なかなか見た目でわからないですから.分かるのは,クーラーの効いた店から楽器を家に持ち帰って,しばらくたってからです.ある日,夏の熱気で膠の接着力が緩み,おざなりに接着されていた木材が剥離しはじめます.そのうち,継ぎ目に隙間が出来ていることに気づくでしょう.むろん,音が吸収されてビビるようになります.放っておくと破断します.

この点に関しては,楽器の構造を知っている目利きに同行してもらって吟味するか,眼を皿のようにしてくまなく楽器をチェックするのが対策になると思いますが,見破れるかどうかは心もとないところです.リスクを避けるには,変な値段につられずに,正当な値段で,アフターフォローのついた店舗から,それなりに評判の確定したブランドを選ぶことですね.つまらん結論ですまんけど.