さて,どんな弓が良いのか? という話です.

まず,結論を言ってしまうと,弓の材料や特性についての知識より,値段を見るのが実践的です.というのも,ここで話題にしている下限の価格帯では,材料の原価が価格に大きく関係するからです.特に,弓は材料が性能に大きく影響するので,すごーく乱暴に言ってしまえば,高けりゃいいのです.

もうひとつ暴言を吐かせてもらうなら,「自分にあった弓を選びましょう」という良く見かけるアドバイスもナンセンスです.既に演奏スタイルの完成している達人なら「自分にあった楽器」を選択できますが,我々のような趣味のプレイヤー(特に今から始める人)は,「自分が楽器に合わせる」が,上達の基本です.結果として「自分にあった楽器だった」(本当は,「自分が,楽器の特性にあった奏法を身につけた」です)となればOK.第一,大量生産品のラインナップから選ぶわけで,たいした選択肢はないってば.とりあえず価格が体現する「ハズ」の,基本性能だけを信じればよろしい.(ウェブでは,たまには過激なことを書かないと,アクセスが増えないと言います.)

しかし,まぁ,上記の「ハズ」部分を確認する上でも,知識は無駄ではありません.以下.

弓の木材の特性は,密度が高くて堅いことです.良し悪しはそこでまず決まります.ブラジル・ウッドが使われることが多く,良いものはその中でもフェルナンブーコというものになります.が,フェルナンブーコであれば,全て良い材料というわけはなく,おのずとピンキリがあるわけで,そんな中,低価格帯の弓に使われる材料のクオリティは推して知るべしです.要するに,材料名をブランドのようにありがたがるのは危険です.(例:○○円でフェルナンブーコ使ってるよ!絶対買いだって!)

カーボンファイバーも材料からみたとき選択肢のひとつになりえます.堅くて,しなやかです.ケアも楽です.欠点があるとすれば,まだ下限価格がちと高いこと(アウチ! ......しかし,これは同性能の木製の弓より高価という意味ではなくて,ある程度の品質以上の製品しか製造されていない,ということです.そりゃ,中国製などに張力コントロール不可能な弓がある等々の例外はあるでしょうけど)と,木と比較してやや剛性が強いことです.剛性については,民族音楽のような,強い表現が多い音楽をやるなら,逆に武器になるでしょう.特に避ける理由は考えつきません.

以上の話を総合すると,要するに,ここではカーボン弓を勧めることになるわけなので,ちょっと詳細に踏み込んでみます.

カーボンファイバ製の弓の特性は:

・加熱成型する「ドライ」と,心棒に巻いて作る「ウェット」の2種類の工法に依存する.「ドライ」の方が強くて上等.

・いずれも木材とくらべて均質(そりゃそうだ).故に,同じ製品ならほぼ同じ性能(木の弓は性能バラバラ).よって,品質を揃えた大量生産が可能.大量生産されれば価格は下がる.

・木より剛直で「しなりにくい」.故に,馬の毛を引っ張る力は木と同程度でも,木よりしならないので,演奏中の弓の操作によって,比較的,張力が変化しにくい.よって,弓のしなりを利用する細やかな表現は苦手.

・その代わり,弓の強さを利用した,大きな音での演奏や,長時間の省エネ演奏が可能.

まとめ:

●カーボンファイバ製の弓は,ドライ>ウェットの2種類あり
●製品ごとに性能が揃っている.たくさん作るほど値段が下がる
●以上より,大量生産品ほど同価格の他製品より良い可能性あり
●小さな力で強い音がでる.しかし,表現力は木より劣る


さて,材料についてはこのくらいにして,直接,弓の性能の話をしましょう.経験上,「重さのバランス」と「堅さ」が良い弓の条件です.

重さのバランスについては,重心の偏りすぎた弓や,重すぎる弓というものに出会ったことはないので,一般に市販されているものは,ある程度の基準を満たしていると考えてよいと思います.私が違いを分かってない可能性もありますけど.

分かりやすいのは,弓の硬さです.木の棒は,馬の毛を張るときの張力に負けない硬度が求められます.逆にいうと,強い音を出したいときに,しっかりと弓を張れないのが悪い弓です.そういう弓は,目的の張力に達する前に木の反りが戻ってしまいます.安~い弓はほとんどこういう風↓になります.

bow-bad.gif

 

 

一方,良い弓は硬いので,馬の毛をしっかり引っ張って(赤い矢印),美しいカーブを保っています.

bow-good.gif

もちろん,見た目が問題なのではありません.悪い弓の問題点を列挙してみます:

1.疲れる

強い音を弾きたいときは,弓を弦にグッと押し付けて弾きますね.このとき張力が足りないと,その分を腕の力で補うことになります.悪い弓で一曲弾くと,腕が強張ってくたくたになります.

2.操作性が悪い

良い弓と悪い弓を比較すると,木の棒と馬の毛との間の距離に差があることがわかります.良い弓はしなっているので,真中付近の距離が短くなります.一方,悪い弓は,この間隔が広がってしまいます.右手は,木の棒を持っているわけなので,馬の毛が木の棒に近いほど,一体感のある操作ができ,間が広がるほど,"遠隔操作"をすることになるので,演奏の精度が落ちます.

3.すぐだめになる

毛を張るたびに,柔らかい木の棒は反りが戻ってしまい,馬の毛の張力はますます低くなっていきます.すると,張力を高く維持するために,もっと強く馬の毛を張る操作をします.すると,もっと反りが戻ってしまい.......この悪循環で,弱い弓は,どんどん弱くなってしまうのでした.(この悪循環に陥らないように,良い弓,悪い弓に関わらず,練習が終わったら馬の毛を緩めて,弓を歪みから開放してあげる必要があるのです!)

・・・と,まぁこんな感じで,弱い弓には欠点が多い.逆に,良くしなってかつ堅い弓は,感覚的な表現で申し訳ないのですが,吸い付くように弦を「噛んで」大きな音を出します.

バイオリン本体はあくまでも器(うつわ)に過ぎず,プレイヤーが自分の責任で音に関わる部分というのは,ほとんど"弓"の操作ではないでしょうか? 左手も音程を決めたりビブラートをかけたりと,忙しいですが,音作りの大部分は,右手にあると思っています.(余談ですが,この「最初は左手が重要だと思っていたけど,数年楽器を練習したら,本当は右手の技術が演奏の優劣を左右することが分かった」というのは,ギターなど,他の弦楽器でも共通して良く耳にするエピソードです)

そんなこんなで,バイオリン本体だけではなくて,弓にも気を使って,選びましょうという話でした.

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2013年12月にライブを予定しています.そのライブメンバーを募集しています.ご興味のある方は是非.