チューニングの仕方,という記事を書こうとして,順序が違うことに,はたと気づきました.その前に,弦の張り替えがあるな,と.とすると,その弦を買ってこなくちゃな,と.

そんなわけで,バイオリンの弦の選び方について.

さて,楽器店に出向いて,(あるいはネットで検索をかけまくって)弦について調べると,必ず困惑する事態に直面します.まず,ドバーっと種類があります.さらに,それぞれ,どんな特性なのかを調べると,

「明るい」「柔らかい」「きらびやかな」「落ち着いた」「豊かな」「強い」「芯のある」「バランスの良い」「引っ掛かりの少ない」「まろやかな」「金属的な」等々......

どれもこれも曖昧で,粒度も性質も違う形容詞で表現されています.

「こちらは,明るい音がでます.そして,こちらは豊かな音が出ます」などと言われると,ちょっと虫の居所が悪い時には,「ということは,こっちは暗い音で,こっちは貧相な音なんですね」とか言いたくなります.いずれにしても,あまりに雑然としていて,弦の選択にちっとも貢献しているように見えません.本当に皆,あれで納得して買い物してんの? 業界は,もう少し知的な表現方法を模索してもいいと思います!(パン! と机を叩く)

と言っていてもしょうがないので,「もういい.貸せっ! 俺がやる!」という勢いで,ここで,整理します. 

細かい分析手法について,滔々と語りそうになる自分を,ぐっと抑制して,かいつまんで言うと,中村均さんという研究者が,心理学実験によって,音楽に対する形容詞には,4つのキャラクタ(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ)があることを明らかにしています.これを足掛かりに攻めますよ.

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ざっと,4因子.すっきりしたではないですか.(Ⅳに「好き」ってのがあって笑っちゃいますが.なんでこんなの入れたのか質問したいぞ)

さて,ここで議論しているのは,音楽そのものではなくて,「弦の音」にすぎないのだから.細かい多彩な表現は「演奏」に委ねて,弦の特性には,ごちゃごちゃ形容詞を費やす必要はない.この4つのカテゴリで表現すればいい.

おっと,もうちょい圧縮できますね.

「Ⅰ:快い弛緩」「Ⅱ:陽気さ」「Ⅲ:抑鬱」「Ⅳ:緊張・力動性」のうち,Ⅲには,バイオリン弦にまつわる既存の形容詞がひとつも含まれません.そりゃそうだ.好き好んで陰気な音のする弦を開発するメーカがあるとも思えません.それから,厳密には,上記の4つの因子は次元が違うんでしょうが,現実的に考えて,弛緩と緊張は同軸にある逆向きのベクトルと考えていいんじゃないの?

そんなわけで,Ⅰ,Ⅱ,Ⅳのカテゴリから,既存の表現を抜き出して,「音の形容詞から弦を選ぶ評価マップ」の決定版としましょう.

結論: 弦は,「力強い or 柔らかい」と,どれくらい「明るい」かだけを念頭に選べばよい.

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これで,十分にシンプルになった.例えば「厳しい」音,なんてのが出てきたら,要するに「Ⅳ:緊張・力動性」に含まれるわけだから,上記のマップでは,Ⅳを読み替えた「力強い」と見なして判断することになります.どうやっても上記にマッピングできない形容詞はノイズなので,耳を貸さなくていいよ,ってこと.

個人的な経験に基づく主観で補足すると,「柔らかい」ほど「明るい」という相関がありそうです.「力強さ」の前では,音の「明るさ」が際立たないんだと思っています.

もうひとつ念のため補足すると,ここでいう,「柔らかい」とか「力強い」は,弦の素材ではなく,音の主観的な表現の話なので混同しないように注意してくださいな.

......と,弦選びの面白さの一端を垣間見せておきながら,長くなったので,一旦,記事を区切ります.弦の選択の具体的な話は次の記事で.