前記事の,弦の選び方(1)では,ちっとばっかし抽象的な言葉を弄くりまわした感があるので,ここでは,具体的な観点から弦選びができるように,王道に立ち返って軌道修正を図るとしましょう.

ということで,ド基本から.

バイオリンには,異なる音域を受け持つ4本の弦を張ります.高いほうから,EADGという4種類の弦を手に入れることになります.クラシック用語としては,ドイツ式に発音するのが慣例ですので,EADG=エーアーデーゲーです.これ注意! すなわち,「エー線をください」と言うと,「A線」ではなく,「E線」が出てきます.それから,弦の名前を呼ぶときは,線「セン」って言います.これも慣用.デーゲンとは言いません.デーセン.

このEADGのうち,太い方の3弦,ADG線は,「巻き弦」です.高音のE線のみ「プレーン弦」です.巻き弦とは,芯になる素材に細い金属(アルミ,またはシルバー)を巻きつけた弦のことです.写真のように二種類の金属による二重巻き弦もよくあります.(プレーン弦は.まぁ「巻き弦じゃない弦」ですね)

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さて,巻き弦の「芯になる素材」には,

  • ガット
  • ナイロン

の三種類があり,普通,弦の特性に大きく影響するのは,この芯の素材と言われています.

●ガット

ガット=羊の腸です.単なる知識として,簡単に受け止められがちですが,こういう映像を見ると,本当にケモノの内臓なんだ,と実感します.

この,羊の腸が,バイオリンに合った振動特性をもつ,伝統的な天然素材です.天然ゆえに高価です.その特性は,柔らかく,明るい響きを得ることが出来るとされています.弦の選び方(1)の結論を持ち込むなら,柔らかい音が出る,ということは,強い音が出にくいことを意味します.この特性は,確かに,抑制の利いたクラシックな楽曲の演奏には,向いているでしょう.

ただし,こいつは耐久性が非常に低い.特に,湿気に弱い.故に日本では,梅雨前に張ったりすると1週間持たずに切れることがあります.

一方,現在では,機能性高分子の合成技術が進歩して,ガットに近い特性の繊維をそれなりのコストで量産できるようになってきています(それが,後述する「ナイロン」です).じゃあ,わざわざ,維持費のかかるガット弦を買う必要あんの? というのが自然な流れですね.

 そんなこんなで,わざわざメイキング映像まで提示しておいて,否定するのはやや気が引けますが,批判を恐れずに私見を述べるなら,湿気の多い日本に住む,趣味のバイオリン弾きにとって,ガット弦は,あまり理性的な選択とは思えません.そこで,このサイトでは,ガット弦という選択肢を排除します.

とはいえ,ひとつフォローしておきましょう.私も,クラシックのバイオリンを弾いていた中学,高校の頃に,ガット弦を使いました.コンサート前に,先生から張り替えを指示された記憶があります.ただ,今思えば,自分に弦の音特性がどうこうというレベルの演奏ができるわけもなく,これは「ステージ衣装」としての弦のチョイスだったと思います.これはこれで大事にすべき姿勢かもしれません.(しかし,ノン・クラシックの演奏をする場合,その衣装が似合うのかどうかは知りません)

●鉄

スチール,というくらいなので,きっと鋼鉄なんでしょう.(正直よく知りませんが,いわゆる,ピアノ線なんだと思います).ガットが天然素材だとすれば,こちらは,まさに工業製品であり,耐久性が高く,安価です.

この金属素材は,重い=密度が高いという特性があります(同じ体積なら羊の腸よりスチールの方が重い.OK?).

ここで,両端を固定した弦の振動を考えます.特に理科の授業で習った(はず)の知識を動員する必要はありません.簡単な話です.

① 重いものは,ゆっくり振動するので,音が低くなります.

② 従って,より強い力で弦を引っ張らないと,目的の音程(=振動数)に届きません.

③ 強く引っ張れば,剛性が高くなります.つまり,スチール弦は,ガット弦より,緊張した固い状態で楽器に取り付けられています.

ところで,一般に弦を振動させると,その音程(=振動数=固有周波数)の他に,固有周波数の2倍,3倍......の倍音成分が生まれます.

④ 緊張した固い状態では,この倍音のうち,低周波数成分が小さくなり,高周波成分が相対的に大きくなります.つまり,「キンキンした音」になります.これが,「金属的な音」と表現されるものの正体です.ギターなんかですと,この音色は,「新しい弦のきらびやかな音」としてむしろ好まれるんですが,バイオリンにおいて,スチール弦のデメリットは,まさにこの音特性にあります.

ちなみに,弦の選び方(1)で書いた「柔らかい-力強い」軸において,「力強い」ベクトルの進んだ先にこの「金属的な音」があると解釈してよいと思います.要するに,スチール弦は,力強すぎて金属的な音になるおそれがあるわけです.

これに対処すべく,スチール弦のメーカは,なんとか鋼鉄で「柔らかい」音を出そうとしています.

●ナイロン

慣習的にナイロンと呼んでいますが,要するに合成繊維を芯材(シンセティック・コアと呼ばれています.そのままですね)にした全ての弦を指します.

合成繊維なので,「柔らかい」ガット弦の音から,「力強い」スチール弦の音まで,いろいろな音特性を狙って設計できます.

高分子設計・製造に余計にコストがかかるためか,スチール弦ほど安価ではありませんが,その分,細やかな気配りで音づくりがなされています.弦の選び方(1)のような,多様な形容詞による表現が必要になったのは,このナイロン弦の多様性に対応してのことだと思います.

......という,かなり一般的な基礎知識を書いて,一旦切ります.イチから書くと,製品までなかなか辿り着かない.ま,気長にやります.