さて,弦の選び方(1)(2)の話題を統合して,具体的な製品選びについて書きますよ.

弦の選び方(1)では,弦の音特性は,「柔らかい」 - 「力強い」という両極をもった軸と,それとは別に,「明るい」という一極の軸で評価できる,という結論をひねくりだしました.

弦の選び方(2)では,弦の芯材に注目して物理的な見地から音を考察しました.それによると,ガットのような軽い素材では,「柔らかい」「明るい」音が得られ,逆に,スチールのように密度が高くて重い素材では,「金属的な」音になりがちであること,それが「力強い」音の延長上にあることを考察しました.

以上を考慮すると,どうやら,弦の密度=重さと音の関係から,「柔らかい」―「力強い」という軸の妥当性がある程度,説明できそうです.それから,密度が低いほど「明るい」音で,密度が高くなるとそれが「力強い」音に変わっていき,もっと密度が高くなると,「金属的な」音になる,というような関係性もほの見えてきます.

なんだ,結局,「柔らかい」「力強い」「明るい」(ついでに「金属的な」)という形容詞は,全部,弦の密度が原因なんじゃないか.......と,弦メーカの努力を無にするような乱暴な結論を下すのは保留しますが,まぁ,まったく無関係ではない,くらいの言い方はできるでしょう.

で,関係が「ある」なら,「柔らかい」―「力強い」軸と「明るい」軸は直交せず,こんな風に斜めにクロスすることになるわけです.「柔らかい」ほど「明るい」,OK?

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さて,以上が導入で,今回はここからが本題です.シンセティック・コアのナイロン弦を中心として,上の図に具体的な製品を乗っけていきましょう.

● ドミナント(トマスティック社/Thomastik)

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基準です.

何が基準かというと,もっとも癖のない,バランスのとれた音特性だと言われています.ただし! この評価は,ガット弦を「本物の」スタンダードとするクラシックバイオリンの観点で下されている点に注意が必要です.ということは,ナイロン弦にしては,「柔らかい」「明るい」ってことなんでしょう.まぁ,いいよ,業界標準みたいなんで,これを以降の弦との比較対象の基準ってことにしておきましょうよ.つまり,図でいえば,「柔らかい」,かつ「明るい」を示す象限のどこかに基準点があるというわけです.

で,このように定番(?)な音特性を持つドミナント弦ですが,ひとつ弱点が知られています.それは,E線だけ,やや「金属的な」音が出る,というものです.ナイロン弦といっても,一般的に,E線だけはスチール弦です.要するに,トマスティック社は,ナイロン弦のADG線はがんばったけど,スチール弦であるE線の音設計には成功しなかったわけです.そこで,ADG線にはドミナントを使用しますが,E線のみ,レンツナー社(Lenzner)のゴールド・ブラカットという製品を利用する組み合わせが,非常に広く使われています.例えば,楽器店では,新しい楽器を仕入れて試奏する際に,とりあえず弦の特性をフラットにするために,このドミナント(ADG)+ゴールドブラカット(E)という組み合わせの弦を張るそうです.

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このように,基準の定番であるため,この組み合わせのセット弦が,お得な料金で販売されています.コスト・パフォーマンスを考慮すると,個人的にお勧めです.普段の練習用に弦を買う,という状況であれば,とりあえずこれでいいよ.

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さて,そうなると面白くないのがトマスティック社です.E線をレンツナー社から奪還すべく,新たに「金属的な」音のしないE線を開発します.それが,カーボンスチールを素材にしたE線です.こういう経緯を押さえた上で,店員に,「ドミナント,ただしE線はカーボンスチールのやつ」とか言うと,油断ならない客が来た! とか思われるんじゃないかな.知らんけど.......ところで,私は,このようなエピソードは聞いていますが,実際に使ったことはありません.はたしてカーボンスチール弦は,ゴールドブラカットからE線を取り返せるほどのパフォーマンスを出せたんでしょうか? なんか知ってる人いたら教えてくださいな.

● インフェルド赤/青(トマスティック社/Thomastik)

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 店頭の表示も,店員の解説も,ネットの情報も,押しなべて,赤は「重厚な」音色,青は「明快な」音色と謳っています.今まで散々考察してきたように,こんな形容はノイズ情報で,まともに取り合っていてはまったく参考になりません.読み替えが必要です.弦の選び方(1)の表を再掲します.

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すると,「重厚な」は,「安定」,「落ち着いた」,「ゆったりした」と似ているので,因子Ⅰの<快い弛緩>が妥当でしょうか? 「明快な」は,「明るい」,「さっぱりした」と似ているので,因子Ⅱの<陽気さ>?

こういう表現にしてしまうと,弦の音特性マップ上では,同じ象限に位置しまてしまいます.ようするに,違いを明確に形容するのが難しいゾーンです.違いがない,と言っているんじゃないですよ.違いを日本語で説明しづらい=購入前の調査が無駄に終わるっていってるんですよ.

私なら,個人的な経験に基づいて,この2つの弦をこう表現します.

基準点であるドミナント(+ゴールド・ブラカット)から見て,赤は,より「柔らかい」「明るい」音を出す.青は,より「力強い」音を出す(=比較的,柔らかくなく,明るくない).

● エヴァ・ピラッツィ(ピラストロ社/Pirastro)

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「力強い」音.で満場一致の音特性を誇る弦です.

非常にわかりやすく「力強い」ので,この弦の名前で検索かけてレビューを読めば,ほとんど書いてあることは一致するでしょう.

私はこの弦,一択です.高いけど.

個人的なことを書けば,「柔らかい」「明るい」音を弾きたければ,そのような弓使いにして,明るいメロディを弾けばいい.そういう音創りは,弦に頼るだけの性質のものではなく,技量で十分対応できると思っています.一方,ポピュラー音楽を演奏するときには,切れ味鋭いリズム表現と,ドスの効いた軋みと,パワーで迫るための音量がほしい場合があります.これらは,残念ながら「柔らかい」「明るい」弦では,物理的に対応できない=技量でカバーしきれないと思うんですよ.

伝わるかどうかわからないけど,ギターのピック選択に似ていると思う.柔らかく,しなる薄いピックは,弾きやすいけど,速弾きや強いピッキングには対応できない.ところが,硬い厚いピックは,指で力を逃がす技術を身につければ,柔らかいタッチで扱えるので,対応の幅が広い.

まぁ,このくらいにしておこう.次!

.......

もうナイ!

すまんけど,そうそう弦を張り替えないんでね.切れないし.近年はエヴァしか使わないようにしてるし.......ほいほい浮気するには,ナイロン弦はお高いし!(←趣味の最重要ファクタ)

そんなわけで,ナイロン弦はおしまい.充分だろ.

次は,スチール弦.

● クロムコア(ピラストロ社/Pirastro)

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バイオリン弦メーカの老舗が出しているスチール弦ってことで引き合いに出しますが,まぁ,普通にスチール弦の音がします.「力強い」大きな音が簡単に得られます.キンキン金属音がすると言われますが,リズム重視の速弾き系楽曲の中では,まったく影響しません.ブルーグラスなどのフィドラーには,逆におすすめです.

何より,ドミナントより安い.

あ,あと,分数バイオリンには,ほとんどこれが張られているそうです.だから何? という情報ですけど.

● ヘリコア(ダダリオ社/D'addario)

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ダダリオ社といえば,ギター弦で有名です.個人的にも大好きな良いギター弦を出しています.

さて,こちらの弦はバイオリン用ですが,やや変わっています.スチール弦でありながら,「柔らかい」「明るい」音を目指しています.具体的には,非常に細いスチール素材で,弦の密度を低くしているわけです.当然,トレードオフで,スチール弦の特性である「力強い」音は失われます.それでも耐久性という利点は残るということで,面白い試みだと思いますね.

さてさて,最後に,ここまで書いたなら,作法としてガット弦についても書いておきましょう.決してお勧めはしませんが.

● オリーブ,オイドクサ,パッシオーネ(ピラストロ社/Pirastro)

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オリーブは,いわずとしれた最高級ガット弦です.高いです.

オイドクサは,オリーブよりさらに「柔らかい」「明るい」音がします.高いです.

パッシオーネは,ガット弦の弱点を克服する,というコンセプトで,最近になって開発された弦とのことで,私は使ったことがないんですが,情報として面白いんで掲載します.何が面白いかというと,ちょうどヘリコアの逆をやっているからです.すなわち,ガット弦でありながら,「力強い」音を目指しています.そうすると,同様のトレードオフにより「柔らかい」「明るい」といったガット弦本来のメリットが薄まるんですね.ジャケットも良い具合に傾いていて天晴なんですが,取材した弦売り場の店員さんは「結局,特徴がなくなって人気もないです」とおっしゃってました.そっかー......がんばれー.

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上図は適当だ! 以上!

追記: なんかエルデ楽器が,新作のフレットバイオリンを開発しているらしいですね.ヘリコアやパッシオーネみたいに,新しい試みは成功しても失敗しても見ていて面白いんですが,エルデ楽器の工房長とは知り合いなので,まぁ,成功を願って注目しておこう.......