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さて、前回は、フレットバイオリンを使った「2時間で曲が弾けるようになる初心者レッスン」のカリキュラムを作って、講師をやったよ、という内容でした。

今回は、具体的にカリキュラムの作成手順についての話です。せっかくの機会なので、専門である認知工学の知見も取り入れつつ、それなりに練ってデザインしたので、自分の思考過程のメモを残しておきます。

lesson-concept.gif


最初に大枠の方針を定めました。

エルデ楽器の理念は、「アマチュアのバイオリン弾きを応援します!」というものです。そこで、初心者~中級者~上級者が、あくまでアマチュアのバイオリン弾きとして目指すゴールを仮設しました。上図の「上級者」ゾーンで3つに分かれている部分がそのゴールです。レッスンをきっかけにバイオリンを始めた人が、最終的に辿りつきたいゴールは、この3タイプに集約されると考えています。 ちなみに、「技術の習得」ではなくて、「バイオリン生活」をゴールにしている点に特徴があると思っています。技術的な弾き方だけじゃなくて、その技術を使って音楽生活に踏み出すサポートをカリキュラムに含むわけです。

さて、カリキュラムの全体方針については別のエントリでもう少し語るとして、このエントリでは、上図の左の「初心者」へのレッスン内容に焦点を当てて解説します。

「初心者」であるあなたは、エルデ楽器のレッスンに参加すると、「え? これだけでバイオリン弾けんの?」という感想をもつでしょう。なぜなら、このレッスンには、一般的な初心者用テキストに書かれているような基礎知識や基礎練習が全く出てこないからです。そう、このレッスンは、曲を弾くために必要な最小限の情報と手指の訓練時間だけで構成されています。あなたは2時間のレッスンの間に、弦を押さえ弓で音を出すことだけに集中して、一直線に曲を弾く体験をつかんでください。

この「一直線」の方針には、大きな理由があります。

それは、モチベーション・コントロールです。バイオリン弾きが、「だめだ、つまんね、やーめた」となるのは、実はあるタイミングに集中しています。バイオリンを始めてみようかな♪ と思い立って楽器を弾いてみたときです。まぁ、わかりやすい話ですよね。3日坊主という言葉が示すとおり、何事も初めの一歩が最も不安定でドロップアウトしやすいもんです。ダイエットでもランニングでもそうじゃないですか、「始めてはみたけどさー、3日でやる気なくしたわ」となる例を挙げれば枚挙に暇がありません。ここを乗り切って定常状態にのせるためには、モチベーションをコントロールする工夫が必要なのです。

モチベーション・コントロールについては、簡単な方法が知られています。「やる気を引き出すには、その人に技量につりあった難易度の課題を与える」というものです。言い方を変えると、人は難しすぎたり簡単すぎる課題が与えられると「やる気をなくす」のです。これはちょっちアカデミックに言うと「フロー理論」に基づいた考え方です。

フロー理論基礎.gif

フロー理論は、もともとスポーツ選手の育成法に使われていましたが、ゲームのデザインなどにも応用されています。例えば、モンハンで最初に出てくるモンスターは大した反撃能力もない草食竜です。それを倒して狩の基本を覚えると、次のミッションには、もっと手強いモンスターが待ち構えています。このモンスターが強すぎれば「無理ゲーすぎて、つまんね」となりますし、弱すぎれば「ただの作業じゃん、つまんね」となります。プレイヤの技量に合わせてゲームの難易度を上げていくことでモチベーションを維持しつつ、ゲームをより難しく、より達成感を得られるように高度化していきます。

そこでバイオリンの話に戻りますが、この楽器は、おそろしく敷居が高いシロモノです。他の楽器――例えば、リコーダ――は、息を吹き込めば誰でも音を出せるし、どれかの孔を指でふさげば、決まった音程がでます。しかしバイオリンは、右手で弓で弦を擦って音を出すこと自体が難しく、さらに左手の指で弦を押さえて音程を作るのですが、このときの正しい指の位置がものすごくシビアで、かつ学習するのがとんでもなく難しいのです。モンハンの例でいえば、コントロールも覚束ない最初のミッションに最強のボスキャラであるアルバトリオンが出てくるようなものです。勝てるわけねー。要するに、全く音楽になりません。それでも、この無理ゲー状態をコツコツと続けて技量を磨いていけば、いつの日か、うまく弾ける日が来るかもしれません。しかし、普通の感性の人であれば、全く音楽にならない練習をコツコツつづけるモチベーションが続きません。幼少の頃からそういう「おけいこ」だと教えられれば出来るでしょうが、大人になれば、世の中にはバイオリン以外にも楽しいことが山ほどあるので、忍耐の限界を超えればさっさとバイオリンを片付けて次の趣味を探すでしょう。当たり前だ。

そんな状態の初心者に、最初にバイオリンを教えるにはどうすればよいか。2つのアプローチが考えられます。ひとつは、プレイヤーの技量に下駄をはかせて底上げすること。もうひとつは、ミッションの難易度を下げること。そうすればフロー理論が示す「モチベーションを育てる適切な範囲」に近づきます。下に図を再掲します。一目瞭然ですね。


フロー理論.gif

では、技量を底上げするためにどうするか。

ここに登場するのが、「フレットバイオリン」です。これを使えば、「辛い練習」を省略して初心者レベルを飛び越え、いきなりメロディを奏でる「楽しさ」を体験することができます(詳細な楽器と効果の説明は別エントリーに譲ります)。私の好きな例えで言えば、フレットバイオリンは自転車の補助輪のような役割を果たします。何度も転んで痛い思いをしながら練習しなくても、補助輪を付ければ、サイクリングする「楽しさ」を先取りできるのです。この「楽しさの先取り」こそ、フレットバイオリンが初心者にもたらす 最大の恩恵でしょう。楽しければ楽器練習を続けられるのですから。

次に、ミッションの難易度を下げるにはどうするか。

ただ音を出すだけでも難しいのに、曲を弾くというミッションを課しているので、何としても難易度を下げる必要があります。簡単な曲を選ぶのは言うまでもありませんが、その他の工夫として、レッスン参加者の認知リソースを管理しています。認知リソースとは、何かに注意を集中したり、物事を記憶したりといった知的作業で使われる、脳という名のCPUのメモリのようなものです。初めてバイオリンを弾くときは、覚えることがたくさんあり、注意すべき事柄もたくさんあるため、脳のメモリがオーバーフローしがちです。そこで、「バイオリンで曲を弾く」というミッションを、できるだけ小さなタスクに分割します。その上で、ひとつのタスクを練習している最中に、別のタスクを挟まず、その習得のためだけに認知リソースを振り分けるようにします。例えば、左手の指で弦を押さえる練習をしているのであれば、右手で弓を持つ技術についてはひとことも触れません。レッスン参加者には、全ての注意を左手だけに集中してもらい、ある程度習得したら次は右手という具合にミッションを細分化して順番に進めていきます。この考え方でレッスン時の指示を削りに削って、究極までシンプルにすることで、なんとかかんとか曲を弾くというまとまったミッションを達成させることができるわけです。

こんな風に、フレットバイオリンの特性を活かして、初心者には「一直線に曲を弾く」レッスンを組み立てたのでした。とりあえず初心者レッスンの話はおしまい!

2013年を最後に更新が途絶えていましたが、唐突に更新を再開します。数年のブランクに何をしていたかと言えば、新しくバンドを作ったり、超絶好みのアイドルユニットに惚れ込んで宅録したり、バイオリンを使ったゲームを作ったり、まぁ、相変わらず脈絡なく楽器を弾いて遊んでました。

で、その中でも、特筆すべき活動といえば、フレットバイオリンですかね。ちっとばかり縁あって巡り合ったシロモノで、当初は、「へぇー」くらいに横眼で見ていたんですが、その後、パイロットプレイヤーという立場で継続的にこの楽器を弾くことになりまして。さすがに数年関わっていると全容が分かってきます。口幅ったいようですが、このギターとバイオリンのハイブリッドのような楽器について、現時点で当ブログが客観的に最も詳しく解説できるはずです。ここ数年の振り返りメモも兼ねて、かいつまんで紹介していきましょう。

fretviolin

フレットバイオリンとは......という概要は、当ブログで2013年8月に記載したフレットバイオリンの試奏レビューの中に詳しいんで、まずはそっちを参照してもらうとして、これ以降では、その先の話を。

語りたいことは山ほどあるんだけど、オマエが何を根拠に知った風に語るんだよ? と言う反応がまぁ普通だと思うので、まずは私が関わった活動の中でも、最も時間をかけてきた「レッスン」について内幕を開示して、そこそこフレットバイオリンについて研究したんだぜってところを見てもらいましょうか。

***

友人が立ち上げた「エルデ楽器」が主催したレッスンは、2014年の4月から現在までに24回を数えます。その企画段階でカリキュラム作製を依頼されたのがこの楽器に関わる契機となりました。飲み会の席でエルデ楽器の工房長から直々に「普通のバイオリニストじゃだめなんだ!」と頼まれたのに気を良くして、「OK、OK、フレットバイオリンってのはさ、細かい音程を気にしないで弾けるんだからさ、要するにリコーダと同じ難易度ってことだろ! 楽勝!」と景気よくぶちあげて引き受けたんですが、要するにちゃんとしたバイオリニストに頼むと金がかかる。お前ならタダ。ということだったらしい。ともあれ、一か月くらい試行錯誤しつつ「2時間かけて初心者にレクチャーして、なんとか曲(らしきもの)を演奏できるところまで到達させる」というコンセプトでカリキュラムを組みました。名付けて「2時間で曲が弾けるようになる初心者レッスン」。そのままだね。

当初は、上手くいく可能性は半々くらいかな、と思っていたんですが、実際に試してみると、これがなんとかなる。レッスン参加者の中には、バイオリンはもちろん、楽器と名のつくものにほとんど触れたことがない人や、カラオケも含めて音楽に縁がないという「音楽の初心者」もいて、極めてハードルの高いレッスン回もあったんですが、それでもほとんどの人が簡単な曲を弾けるようになって帰っていくわけです。......無論、2時間やって弾けない人もいました。「なで肩」でバイオリンを肩にホールドできなかった人、途中で指が痛くなって弦が押さえられなくなった人。一番申し訳なかったのは、他のレッスン参加者が偶然にも全員楽器経験者ばかりで、一人だけ課題にてこずってしまう状況にすっかり自信喪失してモチベーションが持たなかった人です(これは講師としても反省すべき回でした。スミマセン......)。

ともあれ、カリキュラムは概ね良好に機能しました。

lesson-view.jpg

toyotama-lesson-151213.jpg

ここ半年のレッスンでは参加者に事後アンケートに協力してもらっています。「曲が弾けたか?」という設問に対し、「6:とてもそう思う――5:かなりそう思う---4:ややそう思う――3:ややそう思わない――2:あまりそう思わない――1:全くそう思わない」という6件法で評価してもらった結果はこんな感じ。

本当に2時間で曲が弾けた.gif

敢えてネガティブに言うと、100人いたら9人くらいは「2時間で曲が弾けたかって? ......あんまりそう思わない」という体験をした、と。その他の人は超弾けた! というわけではないけど、かなり弾けたんじゃない? というトーンで回答してる。ちなみに、エルデ楽器のウェブサイトにもアンケートの結果が掲載されていますが、あちらよりこっちの方が新しい結果でデータ数も多いので、より正確です。なにより、この結果は円グラフで表現しないと伝わんないと思うし。ついでに、他の項目も掲載しておこう。

楽しかった.gif有意義な体験だった.gifレッスンは難しかった.gif

なんか、皆、フレットバイオリンを触っているだけで面白いみたいで、「楽しい」とか「有意義」という項目にネガティブ回答はゼロ。レッスンの難易度は、割と簡単だと評価されているらしい。ほほぉ......それなら。と言いたいところだけど、せっかく作ったテキストを変更するのは面倒だから、当面このままでいいや。

久しぶりにたくさん書いたな。次回、レッスンカリキュラムの中身についてツラツラ書きます。

先日、ライブでフレットバイオリンを使いました。

その後、この特殊な楽器についての問合せがいくつかありました。特に、「なぜフレットがあるのにビブラートやスライドができるのか?」という疑問が多いようです。で、これに対して、切れ味鋭く、

「気にすんなよ」

と、回答してもいいんですが、せっかくのサイト更新ネタを無下にするのももったいないので、ちょっと考察がてら、言葉を尽くしてみましょう。

***

そもそも、一般的に、バイオリンにフレットがついていないのは何故でしょう? いろいろ回答はあるでしょうが、ひとつは、技術的に困難だからです。

下の動画は、バイオリンを弓で演奏した時の弦の動きを高速度カメラで撮影したものです。

バイオリンの弦は、長軸まわりにねじれて回転しながら、大縄跳びのように、こんなにも大きな振幅でぐるんぐるん動き回るのです! 擦弦楽器ならではの演奏法によって生まれるこの回転が、バイオリンらしい音色を生み出します。そして、このびっくりするほど大きな振幅は、楽器の女王たるこのソロ楽器の、大きな音量を表しているわけです。

さて、ここで注目すべきは、振幅です。この動き回るバイオリンの弦が、関係ないフレットに触れてしまってはいけないわけです。つまり、フレットがある程度以上高いと、振動する弦に触れて、ビビビビとノイズが乗る、いわゆる「ビビる」状態になってしまいます。しかし、フレットが低すぎてもいけません。指で押さえた位置のフレットは確実に、弦を止めて振動の基点を作らねばならないからです。考えてみると、何十分の一ミリといった絶妙な高さのコントロールが必要です。

フレットの形状にも工夫が要ります。指板の上の指の動きを邪魔せず、かつ弦の振動はピッタリの位置で止めるように、フレットの頭は、鋭角過ぎず、丸過ぎずの形状が望ましいでしょう。若干、話は逸れますが、かつて、アメリカ製のフレットバイオリンを触ったことがあります。それは30万円以上する値段で売られており、見かけは艶のある高価そうな楽器でしたが、弾いてみると、指がフレットにあたって痛いのです。で、怪訝に思ってよく見ると、フレットは打ちっ放したまま、エッジを丸めていないお粗末なつくりでした。その手抜きの影響は、一目瞭然でした。フレットの位置で、弦が切れかかっていたのです。

私の所有するフレットバイオリンは、今のところ、上記のようなトラブルには一切見舞われていません。製作者のエルデ楽器は、ウェブサイトにて、フレットバイオリンを生み出すために、15年の研究をしたと謳っていますから、フレットの高さに関しても、形状に関しても、おそらく相当な試行錯誤を経て仕様を決めているはずです。......多分。

viol-pictures.jpg

ところで、同ウェブサイトには、ヴィオール族の古楽器を復刻したという記述もあります。このヴィオールの頃は、フレット代わりに、弦(ガット)をネックに巻きつけていたらしいですね(そのことを知るまで、古楽器の写真を見るたびに、「なんでフレットがグニャグニャ曲がっているんだろう?」と思っていました)。なるほど、同じ弦同士なら、素材の硬さが変わらないし、断面の丸い弦なら、エッジがないので、弦が切れにくいわけです。

閑話休題。

で、要するに、フレットバイオリンにおいては、フレットの高さや形状が、絶妙に調整されている必要がある、ということなんですが、その結果、なにが起きるかというと、フレット機能に"遊び"が生まれるのです。どういうことかというと......、

最近、「フレットバイオリンのレッスン会」なるイベントに何度か講師役で参加する機会がありました。そこで、気が付いたことですが、本当に楽器を触るのが初めてという人は、フレットと弦の関係が分かりませんから、「フレットの間を指で押さえる」と聞くと、恐る恐るフレット間の自由な位置を指で押さえます。その結果、非常に弱い力でヘッド寄りの部分を押さえてしまうことがあります。すると、半音近く低い音が出ます。そう、実は、この楽器、フレットの中で押さえる位置と力加減によって音程が変わるのです。これが、フレット機能に"遊び"があるという表現の意味するところです。

 sweet-spot.jpg

要するに、フレットの中であれば、どこを押さえてもいいというわけではないのです。安定した正しい音程を得るには、押さえるべき"スウィートスポット"が確実に存在します(もちろん、通常の力でそれなりの場所を押さえれば、安定した音程が得られます。しかし、積極的に音を変えようという意思をもって微妙な力加減で指を動かせば、フレット内でも音程が変化します。そのあたり、やはりフレットの高さが絶妙と言わざるを得ません)。

大まかに次の表のように、特性を整理できるでしょう。

pitch_controllability.GIF

表中の、フレットバイオリンとギターとの違いは、フレットの中で指先を動かしたときの音程変化の幅にあります。ギターよりバイオリンの方が、音域が1オクターブ以上高いため、弦長が少し変わるだけで音程の変化が大きいのです。また、ギターは、コードを弾く楽器ですから、複数の弦を同時に押さえて弾いた時にハーモニーが崩れないように、フレットを高めに設定して安定させているのでしょう。ギターは、比較的フレットの"遊び"が少ないわけです。

で、このフレットの"遊び"の話は、最初の疑問、「なぜフレットがあるのにビブラートやスライドができるのか?」に戻ってきます。要するに、フレット機能の"遊び"がビブラートを可能にしているのです。さらに、ギターよりフレットが低いため、比較的なめらかにポルタメントやスライドができるというわけです。

......って言うか、「ギターでも、ある程度はビブラートをかけられますし、スライドもできますよね。その"遊び"の余地が大きいんですよ!」という説明の方が簡単だったわ。

8月4日は「バヨリンの日」.

楽器工房を開いている友人が,これまでの人生の大半を費やして,「フレットバイオリン」なるものを作成したというので,大笑いした後,冷やかし半分に,「試奏してやるよ」と,上から申し出たところ,存外に改まって「是非に」と頼まれたので,真面目にレビューしてみます.

さて,フレットバイオリン.

調べるてみると,希少なのは確かですが,世にも珍しい,というわけではなくて,例えば,"fretted violin" で検索をかけるとアメリカを中心に,ある程度ヒットします.要するに,バイオリンの指板にギターのようにフレットが付いているというシロモノです.

今回,試奏するにあたって,制作者の工房に押しかけたところ,何本かフレットバイオリンの完成品が並ぶ中に,キラッと輝くように,さらに異色なバイオリンが目にとまったので,「誰が何と言おうとこれを弾く」と高らかに宣言して持ち帰ってきました.フレット付き,さらに5弦のレアアイテム.

fret-violin-5strings.jpg

さて,まずは,「フレット付き」の特徴を確認してみよう,ということで,普通に音階を弾いてみます.さらに,音程が固定されることは分かり切っているので,ピッチコントロールが比較的難しい重音(ダブルストップ)でのパフォーマンスを確かめてみました.要するに,簡単に正しい音程で弾けるかどうか試したわけです.

当たり前ですけど,音程に気をつけなくても,ピッチは狂いません.狂うとすれば半音一気に狂いますが,この場合は,音程が狂ったのではなく,単に「押さえるところを間違えた」というべきでしょうね.

ところで,バイオリンは,ある程度,腕があっても,きっちり2つの音程をコントロールしたまま奇麗な重音を響かせる演奏――例えば,シンセサイザーが担当する「ストリングス」のような演奏――には向かない楽器です.もともと弦を2本押さえるために,手の形を不自然に捻るわけですから,その状態で指先の微妙な位置を長時間にわたって固定し続けるのは,そりゃ難しい.しかし,そこにフレットがあれば,弦を2本同時に押さえても,指先の位置はある程度,アバウトでいいわけです.そんなわけで,重音の演奏が楽! ということが分かりました.まぁ,頭で考えれば不思議ではありませんが,実際にやってみると,「おや,これは便利!」という感想です.

で,次に懸念事項なんですが,

簡単に言うと,フレットが「ない」というバイオリンの特徴が,フレットを付けることで消されてしまう恐れが大きいわけです.具体的には,フレットの中で細かく指を動かしても,音程は変わらないと考えられるので,フレットの中での指先の細かい震えによる「ビブラート」はちゃんとかかるのか? それから,音程を滑らかに変化させる「グリッサンド」や「スライド」は,フレットがなければ滑らかですが,フレットがある状態では,ガタガタとした階段状の音程変化になってしまうのでは?

まぁ,ひとつ試してみましょう.

まず,ビブラート.

......は,良く見ると,上に挙げた動画で十分にかかっているのが確認できたので割愛.なんとびっくりですが,フレットごしでも,十分に,というより,普通のバイオリンと全く何も変わらずに,ビブラートがかかります.特に演奏法も変わりません.

グリッサンドはどうでしょうか? まずはグネグネとグリスをかけまくって音を出してみます.

驚いたことにこちらも,ほとんど影響がありません.グリッサンドでもスライドでも,音がガタガタに変化することなく,スムーズです.ちなみに,音を変化させるときの始点と終点が決まっているのがスライド,そうではなくて,装飾やニュアンスとしてなめらかに音を滑らせるのがグリッサンドです.まぁ,用語なんかどうでもいいや.とにかく,両方できます.

民族音楽なんかによくある,半音下から音を出す弾き方も試してみます.

違和感なく弾けました.

んじゃ,行けそうなので,ひとつジャズっぽいバイオリンのフレーズを弾いてみましょう.

と,いうことで,フレットバイオリンは,少なくとも,ぱっと弾いてみた範囲では,問題なく使えそうだ,と結論したところで,以上です.

......せっかくなので,友人の工房ショップ『エルデ楽器』を紹介しておきます.あと,バヨリンの日なんてありませんから,念のため.......8/28は「バイオリンの日」らしいですけど.

バイオリンを使った「活動ナビゲーション」のエントリで,「フェス」にチラッと言及しました.


要するに,野外テージ+キャンプ+ジャムセッションっていう感じです.実にオープンな(閉鎖的でないという意味でも),独特の楽しさ満載のイベントです.音楽好きにはオススメ!

ここでは,もう少し具体的に紹介します.

バイオリンを使ったェスといえば,日本では,「ブルーグラス(bluegrass)」という音楽の愛好家が集まるブルーグラス・フェスが,最も多いでしょう.もちろん,ブルーグラスにとどまらず,様々アコースティック音楽で,フェスが催されています.フェスの情報はネットで収集できますので探してみましょう.

...と,数年前のコンテンツでは,フェス・カレンダーやフェス・マップのURLを紹介していたんですが,全部リンク切れ.昨今はもう個人ウェブサイトで情報収集する状況じゃないね.なんらかのSNSやグーグルで「ブルーグラス+フェス」で検索すれば,十分な情報が得られるでしょう.

定番のフェスは,箱根フェスや朝霧フェス宝塚フェス,他にもたくさんあります.腕に覚えのある人は,キャンプがてら友達誘って楽器担いで行ってみるといいよ.もちろん,純粋にリスナーとしても大いに楽しめます.フェスの参加システムには若干違いがあるので,疑問があれば事前に主催者に問い合わせることをお勧めします.

ちなみに,私は今年も古巣の北海道は追分フェスを楽しみにしています.ここは,昨年夏に終了が告げられ,20数年の歴史に幕が下りた直後に,すかさず有志が主催者を買って出て,不死鳥のごとく継続が告知されたんですよ.そんなノリです.

バイオリンほど汎用的な楽器はありません.

 

基本性能がものすごく高いので,人間の無限の表現欲求にほとんど対応できてしまうのです.ですから,その時々によって,全く別の楽器のように性格を変えます.卑賤民の商売道具だったり,貴族の嗜みだったり,悪魔の楽器と呼ばれたり,天上の響きを称えられたり.超絶技巧のソロも弾ければ,黙々とリズムも刻める.たいしたモンだ.

 

そんな「万能」楽器ですから,自由にいろんな楽しみ方をしたいですよね.そこで,ここでは,敢えてバイオリン教室や市民オケのような間口の広いバイオリンとの付き合い方については省略して,もうちょいなんというか,「ナビゲータがいなければ入り込めない小道」みたいな活動を紹介しようと思います.要するに,こっちの方が手軽だし楽しいよ♪っていうニコヤカな笑みを浮かべたお誘いです.

 

●バンドで...

 

個人的な例で恐縮ですが,私は,超がつくほどポール・マッカートニーのファンでして.1990の初(祝!)日本公演は脳裏に刻まれているし,1993年に受験に失敗したのも2回目の来日が原因です(もちろんこのライブだけで失敗するほど頭のネジが緩かったわけじゃありません.この年にはキンクスの来日ライブもあったんです).2002年の(最後の?)ツアーでは,初日と最終日の2回を堪能しました.

 

で,そんなんだから,当然,中学生くらいになるとビートルズのコピーバンドは通る道じゃないですか.ところが,かつて組んだとあるバンドでは,ポール役のベースだったにもかかわらず,なんか面白いからバイオリン入れろ,と言われて,「はぁ?ポールにバイオリン弾かせるなよ!」と憤ったものです.ところが,"I Will"という曲に,適当なバッキングをつけてみたところ,これが,かなり!!いい感じでした.以後,そういう目で探すと,バイオリンの音色が合う曲ってのは,意外とそこらじゅうにあるもんです.このあたりの感覚が自分の原点だと思っています.

 

それはいいけど,バイオリン弾きながら歌うのは無理なので,結局,ベースばかりかボーカルも奪われてしまった.いい曲なのに! (関係ないですが,この曲はさりげなくベースがスキャットなので,ギターと口ベースで手軽に宅録できます.本当に関係ない話題ですまんけど)

 

●野外フェス

 

シーズン(主に夏)になると,「フェス」と呼ばれる野外コンサートが,いたるところで開催されます.その中でも,いわゆるロック・フェスティバルではなくて,アマチュアによるアコースティックを主体としたフェスが,フリースタイル・バイオリンの活動の場になります.

 

こういうフェスは,大抵,音を出しても近所迷惑にならないキャンプ場などに,アコースティック楽器を持ち込んだ団体が出現して,ステージを作り,その周りにテントを張り,そして,野外ショウが始まります.

 

バーベキュー&ビールで見物している観客も,ほとんどがプレイヤーですので,興が乗ってくると,気のあったメンツを集めて,そこらで,適当な編成のジャムバンドを結成して,ステージに上がってきます.演奏する曲は,(フェスの趣旨にもよりますが)いわゆるトラッド・ミュージックが多いでしょう.ラテン好きは,チャランゴ(小さなギターみたいなの)とケーナ(笛)で,コンドルが飛んでいくし,激しいアイリッシュ・バンドが出てくれば,そこら中で,偽アイリッシュダンスが始まる.・・・退屈なフォーク野郎が出てきたら,バーベキューに戻る,と.

 

翌朝,死ぬほど暑い太陽の下,楽器を背負って会場を後にするとき,絶対来年も来よう!と心に誓うのです.

 

●パブやライブ・バーで

 

ここ10年ほど続いたアイリッシュ・ミュージックの流行は下火になった感がありますが,その代わりすっかり市民権を得たみたいで,毎週どこかのアイリッシュ・パブで,飲みながらジャムセッションするイベントが開かれています.こういう店は,(酒代の出費に目をつぶれば)とてもよい活動基盤になります. 仲間も増えるしね.

アイリッシュパブじゃなくても,演奏スペースがある飲み屋は狙い目です.ライブハウスみたいに大音量が出せない店舗が多いので,勢いアコースティック系の音楽が中心になるからです.カッコいい曲を,何ヶ月か練習しておいて,週末のフリーステージなんかで披露すると,なかなか拍手喝采を浴びたりして,い~い気分になれるんですよ.店にオッサンばっかりじゃなければ,もっといいんだけどな.

 

その他,フォルクローレ,ブルース,ブルーグラス等々,少し街を探せば,なんらかのジャンルで,セッションや飛び込み演奏OKなお店が見つかるはずです.ジャズは一大勢力ですね.そういう小さなコミューンでは,そもそも仲間が少ないので,バイオリン志望の初心者なんて大歓迎してくれるはずです.まずは偵察に行くと活動が広がること請け合いです.

 

そんな店はなかった? じゃあ,次は大学だ.近くに大きめの大学はないですか.つまり学生の作ったサークルに入るという戦略.一人の力では活動を維持できなくても,団体の力をもってすれば定期的な活動が容易になります.暇を持て余している学生なら,本来学業に振り向けるべきだったエネルギーを惜しげもなく消費して,充実した音楽活動の基盤を作ってくれる,かもしれません.

 

...とりあえず,こんなところでしょうか.それぞれの詳細は別途.

クラシック「ではない」分野のバイオリンってどんなの?

などという質問に,序立てて丁寧に説明していると,多分,再来年くらいまで語らねばならないので,もう映像に頼ってしまう.ようするにこういうのですよ.

 これは,Leahyというカナダのバンドです.ジャンルで言えば,スコティッシュになるでしょうか.

より正確には,(この段落は,これ以降,ウンチクですので一息にナナメ読みしてください)――カナダにケープ・ブレトンという島がありまして,ここは19世紀から移住してきたスコットランド人が一大コミューンを作っていて,本国以上にスコットランド文化,その中でも特にスコットランド音楽が根付いている土地と言われています.で,その民族音楽が,すぐそばのアメリカのエンターテイナー業界に影響を受けた結果,ロック・ミュージックのフォーマットで,こんな風にカッコいいバイオリンを弾きまくる音楽になったわけです! 

とまぁ,半端な知識をひけらかしてみたわけですが,ようするに何が言いたいかというと,上の説明で「民族音楽」「エンターテイナー業界」というキーワードが示すように,これこそ,ノン・クラシックのポピュラー音楽で,このサイトでは,こういう音楽を演奏する方法について雑談混じりに言及しますよ,ということです.もちろん,世界にはゴマンと民族音楽があり,新しい音楽も,日々,作曲されているので,上記はほんの一例に過ぎません.(過ぎませんのですが,私が言及できる範囲も相当に限られています.ご了承ください)

ところで,一応,保身のために予防線を張っておきますが,「フリースタイル」というのは,決して「アンチ・クラシック」というわけではありません.いろんな奏法を楽しもう,という程度の話です.クラシックの奏法がハマる曲なら,そのように弾けばかっこいいし,縦乗りのダンス・チューンのノリを出したいなら,シャッフル奏法を身につければいいのです.あるいは,ドラム入りのバンドでライブをするなら,エレキ・バイオリンの音作りなんかも必要になるでしょう.

ところが,コレを実践するのは,なかなか楽じゃない.

なぜなら,現状では,クラシックとノン・クラシックの間には,不幸にして交流が少なく,完全に世界が分かれてしまっているからです.そのため,クラシックのバイオリン教室に10年通っても,シャッフルのノリでダンス・チューンを弾く術を知る機会はまずないでしょう.逆に,民族音楽のバイオリン奏法を独学で学んだ人は,何かの機会に,改めてクラシック・バイオリンを学びなおさない限り,楽器の響きを最大限に引き出すことなく,いつまでも潰れた野太い音をかき鳴らし続けるでしょう.

そんな中,クラシックには,その名の通り,長い歴史の中で積み重ねられた伝統的な教育ノウハウとサポート体制が充実しています.まずバイオリン教室で基礎を学んで,上達したらもっと上等な先生について,音大に進んで,コンクールでキャリアを磨いて,オーケストラに入るなり,ソリストになるなり,先生になるなりといった道が示されていて,誰もがどこかのフェーズで研鑽を積むことができるわけです.それにひきかえ,民族音楽を始めとしたノン・クラシック分野には,ほとんど何もありません.弾きたい人が,自分で学習方法を探して,自分で練習場所を見つけて,なんとか一緒に演奏してくれる仲間と出会って,それでやっと人前で弾く機会に辿りつける,という状況です.もともとポピュラー音楽ゆえに,メロディもリズムもとっつき安くて,奏法自体も簡単なのに,実際は,趣味として音楽活動するための敷居が恐ろしく高い状況なのです.そりゃ「やっぱやめた.面倒くさいんだもん」ってなりますわな.

そこで,クラシック・バイオリンではなく,不足がちなノン・クラシック寄りの情報を紹介して,貴方のプレイ・スタイルに選択の幅を提供しましょう,というのが,「フリースタイル」の趣旨です.この「選択の幅」ってのがミソです.ハッキリキッパリぶっちゃけて言うと,この世にはバイオリン以外にも面白楽しいことは山のようにあります.それなのに,趣味でバイオリン弾きたいと言っている人に,伝統的な修行の「クラシック道」だけを示して,不要でつまらんプレッシャーを与えるのは愚かなことです.やりたい音楽くらいこっちで決めさせろよ.なぁ?

 

あと,もう一個,ぶっちゃけていうと,こっち側には同好の士が少なくてさぁ.

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