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先日、ライブでフレットバイオリンを使いました。

その後、この特殊な楽器についての問合せがいくつかありました。特に、「なぜフレットがあるのにビブラートやスライドができるのか?」という疑問が多いようです。で、これに対して、切れ味鋭く、

「気にすんなよ」

と、回答してもいいんですが、せっかくのサイト更新ネタを無下にするのももったいないので、ちょっと考察がてら、言葉を尽くしてみましょう。

***

そもそも、一般的に、バイオリンにフレットがついていないのは何故でしょう? いろいろ回答はあるでしょうが、ひとつは、技術的に困難だからです。

下の動画は、バイオリンを弓で演奏した時の弦の動きを高速度カメラで撮影したものです。

バイオリンの弦は、長軸まわりにねじれて回転しながら、大縄跳びのように、こんなにも大きな振幅でぐるんぐるん動き回るのです! 擦弦楽器ならではの演奏法によって生まれるこの回転が、バイオリンらしい音色を生み出します。そして、このびっくりするほど大きな振幅は、楽器の女王たるこのソロ楽器の、大きな音量を表しているわけです。

さて、ここで注目すべきは、振幅です。この動き回るバイオリンの弦が、関係ないフレットに触れてしまってはいけないわけです。つまり、フレットがある程度以上高いと、振動する弦に触れて、ビビビビとノイズが乗る、いわゆる「ビビる」状態になってしまいます。しかし、フレットが低すぎてもいけません。指で押さえた位置のフレットは確実に、弦を止めて振動の基点を作らねばならないからです。考えてみると、何十分の一ミリといった絶妙な高さのコントロールが必要です。

フレットの形状にも工夫が要ります。指板の上の指の動きを邪魔せず、かつ弦の振動はピッタリの位置で止めるように、フレットの頭は、鋭角過ぎず、丸過ぎずの形状が望ましいでしょう。若干、話は逸れますが、かつて、アメリカ製のフレットバイオリンを触ったことがあります。それは30万円以上する値段で売られており、見かけは艶のある高価そうな楽器でしたが、弾いてみると、指がフレットにあたって痛いのです。で、怪訝に思ってよく見ると、フレットは打ちっ放したまま、エッジを丸めていないお粗末なつくりでした。その手抜きの影響は、一目瞭然でした。フレットの位置で、弦が切れかかっていたのです。

私の所有するフレットバイオリンは、今のところ、上記のようなトラブルには一切見舞われていません。製作者のエルデ楽器は、ウェブサイトにて、フレットバイオリンを生み出すために、15年の研究をしたと謳っていますから、フレットの高さに関しても、形状に関しても、おそらく相当な試行錯誤を経て仕様を決めているはずです。......多分。

viol-pictures.jpg

ところで、同ウェブサイトには、ヴィオール族の古楽器を復刻したという記述もあります。このヴィオールの頃は、フレット代わりに、弦(ガット)をネックに巻きつけていたらしいですね(そのことを知るまで、古楽器の写真を見るたびに、「なんでフレットがグニャグニャ曲がっているんだろう?」と思っていました)。なるほど、同じ弦同士なら、素材の硬さが変わらないし、断面の丸い弦なら、エッジがないので、弦が切れにくいわけです。

閑話休題。

で、要するに、フレットバイオリンにおいては、フレットの高さや形状が、絶妙に調整されている必要がある、ということなんですが、その結果、なにが起きるかというと、フレット機能に"遊び"が生まれるのです。どういうことかというと......、

最近、「フレットバイオリンのレッスン会」なるイベントに何度か講師役で参加する機会がありました。そこで、気が付いたことですが、本当に楽器を触るのが初めてという人は、フレットと弦の関係が分かりませんから、「フレットの間を指で押さえる」と聞くと、恐る恐るフレット間の自由な位置を指で押さえます。その結果、非常に弱い力でヘッド寄りの部分を押さえてしまうことがあります。すると、半音近く低い音が出ます。そう、実は、この楽器、フレットの中で押さえる位置と力加減によって音程が変わるのです。これが、フレット機能に"遊び"があるという表現の意味するところです。

 sweet-spot.jpg

要するに、フレットの中であれば、どこを押さえてもいいというわけではないのです。安定した正しい音程を得るには、押さえるべき"スウィートスポット"が確実に存在します(もちろん、通常の力でそれなりの場所を押さえれば、安定した音程が得られます。しかし、積極的に音を変えようという意思をもって微妙な力加減で指を動かせば、フレット内でも音程が変化します。そのあたり、やはりフレットの高さが絶妙と言わざるを得ません)。

大まかに次の表のように、特性を整理できるでしょう。

pitch_controllability.GIF

表中の、フレットバイオリンとギターとの違いは、フレットの中で指先を動かしたときの音程変化の幅にあります。ギターよりバイオリンの方が、音域が1オクターブ以上高いため、弦長が少し変わるだけで音程の変化が大きいのです。また、ギターは、コードを弾く楽器ですから、複数の弦を同時に押さえて弾いた時にハーモニーが崩れないように、フレットを高めに設定して安定させているのでしょう。ギターは、比較的フレットの"遊び"が少ないわけです。

で、このフレットの"遊び"の話は、最初の疑問、「なぜフレットがあるのにビブラートやスライドができるのか?」に戻ってきます。要するに、フレット機能の"遊び"がビブラートを可能にしているのです。さらに、ギターよりフレットが低いため、比較的なめらかにポルタメントやスライドができるというわけです。

......って言うか、「ギターでも、ある程度はビブラートをかけられますし、スライドもできますよね。その"遊び"の余地が大きいんですよ!」という説明の方が簡単だったわ。

8月4日は「バヨリンの日」.

楽器工房を開いている友人が,これまでの人生の大半を費やして,「フレットバイオリン」なるものを作成したというので,大笑いした後,冷やかし半分に,「試奏してやるよ」と,上から申し出たところ,存外に改まって「是非に」と頼まれたので,真面目にレビューしてみます.

さて,フレットバイオリン.

調べるてみると,希少なのは確かですが,世にも珍しい,というわけではなくて,例えば,"fretted violin" で検索をかけるとアメリカを中心に,ある程度ヒットします.要するに,バイオリンの指板にギターのようにフレットが付いているというシロモノです.

今回,試奏するにあたって,制作者の工房に押しかけたところ,何本かフレットバイオリンの完成品が並ぶ中に,キラッと輝くように,さらに異色なバイオリンが目にとまったので,「誰が何と言おうとこれを弾く」と高らかに宣言して持ち帰ってきました.フレット付き,さらに5弦のレアアイテム.

fret-violin-5strings.jpg

さて,まずは,「フレット付き」の特徴を確認してみよう,ということで,普通に音階を弾いてみます.さらに,音程が固定されることは分かり切っているので,ピッチコントロールが比較的難しい重音(ダブルストップ)でのパフォーマンスを確かめてみました.要するに,簡単に正しい音程で弾けるかどうか試したわけです.

当たり前ですけど,音程に気をつけなくても,ピッチは狂いません.狂うとすれば半音一気に狂いますが,この場合は,音程が狂ったのではなく,単に「押さえるところを間違えた」というべきでしょうね.

ところで,バイオリンは,ある程度,腕があっても,きっちり2つの音程をコントロールしたまま奇麗な重音を響かせる演奏――例えば,シンセサイザーが担当する「ストリングス」のような演奏――には向かない楽器です.もともと弦を2本押さえるために,手の形を不自然に捻るわけですから,その状態で指先の微妙な位置を長時間にわたって固定し続けるのは,そりゃ難しい.しかし,そこにフレットがあれば,弦を2本同時に押さえても,指先の位置はある程度,アバウトでいいわけです.そんなわけで,重音の演奏が楽! ということが分かりました.まぁ,頭で考えれば不思議ではありませんが,実際にやってみると,「おや,これは便利!」という感想です.

で,次に懸念事項なんですが,

簡単に言うと,フレットが「ない」というバイオリンの特徴が,フレットを付けることで消されてしまう恐れが大きいわけです.具体的には,フレットの中で細かく指を動かしても,音程は変わらないと考えられるので,フレットの中での指先の細かい震えによる「ビブラート」はちゃんとかかるのか? それから,音程を滑らかに変化させる「グリッサンド」や「スライド」は,フレットがなければ滑らかですが,フレットがある状態では,ガタガタとした階段状の音程変化になってしまうのでは?

まぁ,ひとつ試してみましょう.

まず,ビブラート.

......は,良く見ると,上に挙げた動画で十分にかかっているのが確認できたので割愛.なんとびっくりですが,フレットごしでも,十分に,というより,普通のバイオリンと全く何も変わらずに,ビブラートがかかります.特に演奏法も変わりません.

グリッサンドはどうでしょうか? まずはグネグネとグリスをかけまくって音を出してみます.

驚いたことにこちらも,ほとんど影響がありません.グリッサンドでもスライドでも,音がガタガタに変化することなく,スムーズです.ちなみに,音を変化させるときの始点と終点が決まっているのがスライド,そうではなくて,装飾やニュアンスとしてなめらかに音を滑らせるのがグリッサンドです.まぁ,用語なんかどうでもいいや.とにかく,両方できます.

民族音楽なんかによくある,半音下から音を出す弾き方も試してみます.

違和感なく弾けました.

んじゃ,行けそうなので,ひとつジャズっぽいバイオリンのフレーズを弾いてみましょう.

と,いうことで,フレットバイオリンは,少なくとも,ぱっと弾いてみた範囲では,問題なく使えそうだ,と結論したところで,以上です.

......せっかくなので,友人の工房ショップ『エルデ楽器』を紹介しておきます.あと,バヨリンの日なんてありませんから,念のため.......8/28は「バイオリンの日」らしいですけど.

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執筆・演奏: okikage

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