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先日,久しぶりに「カットの弾き方」を書きあげて,達成感に浸りつつ,ツイッターでブログ更新を宣言したところ,「カットの弾き方書いたよー」と宣言をするつもりが,「ロールの弾き方を書いたよー」と書き間違えてしまいまして.で,その直後にリツイートされてTLのかなたに間違い発言が拡散していくのをなすすべなく茫然と見守ったのでした.しょうがないから,さらっと「ロール」の方を書いて前後関係をうやむやにしたい.

さて,アイリッシュの演奏を聴いていて、バイオリンが、「なにやってるか分かんない」No.1 は、個人的にはロールでした。トリプレットやカットは、音から奏法がイメージしやすいので、力任せ、あるいは試行錯誤でなんとかなります。しかし、ロールという技は、音だけでは全然手がかりにならない。演奏者の手元を見てもまだよく分からない。もちろん、タネが分かってしまえばなんてことないんですけどね。

さて、じゃ「ロール」ってなに?というところから。

私の大好きなアイリーンアイヴァースの「クロウリーズ/ジャクソンズ"」というメドレー曲のコピーです.当時,北海道在住の友人と,東京の私とでRRP(確か,リモートレコーディング......なんちゃら,忘れました)というユニットを作っていて,送り届けられたギター録音に合わせて,後からバイオリンを重ねたものです.アイリーンの演奏のアグレッシブさやリズムのキレを再現したかったんですが,とても演奏では再現できなかったので,アグレッシブな唸り声とか,チャッ!ツクツク・チャッ!とキレのいいボイスパーカッションモドキを添加してそんな感じの雰囲気を出そうと,完全に方向性を見失った努力の跡があります.そんな気持ちだけで弾き飛ばした10年前の音源です.同じ曲を弾いているはずなのに,なぜか先にバイオリンが弾き終わってしまい,残った時間を持て余していますね.懐かしい......

で,そんな説明はどうでもいいや.ただ「ロール」が入っている手持ちの音源を適当に引っ張り出しただけです.そう,実は,冒頭から何度も「ロール」が出てきます.速すぎて分からないので,そこだけゆっくり弾いたフレーズを抜き出します。

これがロールです.指使いで言うと,ファースト・ポジションで,開放弦=0,左手の人差し指=1,中指=2,薬指=3としたとき, 12101 という5つの音をひと弓で弾きます.デモ曲のロールはテンポが速すぎたために表現しきれていませんが,本来は,ひと弓の音の中で,クレッシェンドするように後拍を強調するニュアンスがポイントです.

図にするとこんな感じ.

rollの説明.gif

2拍目のアタマにくる「1」の運指.ここに向かって音量が増えているのが分かると思います.わずかにシャッフル(タタタタ、ではなくタッカタッカという拍の取り方)なので,ピーク位置が真中より後ろにずれてます.

デモ曲の中で,このロールのニュアンスがもっとよく出ているのは,1:26あたりでロール入りフレーズが三連続するところですね.ロールがちゃんと後拍強調で弾けてる.

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というところまで,2006年のブログからサルベージした内容に基づいて加筆したんですが,簡単に動画が撮れるようになった今,下の動画を付けくわえます.超絶わかりやすい! 最初からこれ出せよって感じですよね.

 

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エルデ楽器という友人の工房ショップで,上記のようなノンクラシックなバイオリン奏法をレッスンしています.気になった方はこちらへ♪ 

トラッドには、いくつか独特な演奏法があります。

特に、ケルティックな小技は、単純な旋律に、哀愁のある味付けをします。さりげない隠し味ですが、ピリリと利いて琴線に響きます。そんな小技の一つ。カット(cut)について、いつものように、我流で説明してみようと思います。

カットとは、非常に素早く装飾音を入れるテクニックです。言葉で説明するより、見てもらう方が早い。こんな感じ。

途中でトリプレットなども出てくるので紛らわしいですが、注目ポイントは出だしのフレーズです。最初の5音目からクラシックでいう、トリルを3音だけ素早く弾いているような装飾、これがカットです。

やり方は、装飾を入れたい音の、1度上の音、攻めたい場合は2度上の音を、「極わずかに」「瞬間的に」入れます(ちなみに,「攻めたい」というのは、カットそのものを目立たせて、その効果を浮かび上がらせたいという意味です)。ベストのタイミングは存在するのでしょうが、個人的には、速ければ速いほどイイカンジです。"カット"というくらいなので、装飾音そのものは実は鳴らなくてもいい――曲にもよるのですが、鳴らなくても基本のメロディには影響がない装飾音なのです。思うに,装飾「音」とはいえ、実は音が途切れてリズムにキレ味が出るところに本質があるような。

もう一度、ややゆっくりバージョンで。

次に,カット部分だけを取り出して指使いを見てみましょう。

上の動画では,カットの役割を分かりやすくするために,カットなしのフレーズと,カットありのフレーズを交互に弾いて解析しています.これでカットがどの音を強調したいのか,演奏者の意図が分かりやすくなったと思います.カットを入れることで,もともと1つの音だったところが,同じ時間内に短い3音が畳みこまれる状態になります.ここにアクセントが生まれ小気味よいダンスチューンのキレ味が表現されるのです

こういう装飾は、仮にスコアがあっても、そこには指示はなく、演奏者が感覚的に挿入するものです。そこには、なんらかの出現パターンがあるわけなんですが、文章で説明するようなことではないので割愛。上手い人の演奏を聴いてコピーしているうちに、なんとなく入れたい場所が出てくるもんです。ちなみに、私は、手が動く限り多用する傾向があります。盛りだくさんのサービス精神です。

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エルデ楽器という友人の工房ショップで,上記のようなノンクラシックなバイオリン奏法をレッスンしています.気になった方はこちらへ♪ 

さて、順番的には、弦を張ったんだから、次は調弦(=チューニング)ですね。

最初に、提言を。

tuning_fork.jpg

音叉はいらない。

中高校生くらいの一時期、ミュ~ジシャンを気取って、常に音叉を携帯していました。

「お客様の中に、どなたかA=440Hzで正確にチューニングできる方はいらっしゃいませんか!!」

「ふっふっふ、こんなこともあろうかと......(コーン♪)」

みたいな場面、......を思い描いていたわけではありませんが、何かの折に、さも当然のように音叉を取り出して、ささっと楽器をチューニングできるように、常に備えていたわけです。かっこいい。で、結局、その音叉を活用する機会が一度でもあったかというと、まぁ、一回あったんですが、それは弁当の箸を忘れたときだったので、音楽とは関係ない話です。

この音叉(チューニングフォーク)ですが、「伝統的な」調弦ツールとして現在も店頭に並んでいるものの、実は、めちゃくちゃユーザビリティ(使い勝手)の悪いシロモノです。

まず、貴方は、音叉を手にとって、コーンと机の角にでも打ちつけます。で、そのまま音叉を耳に当てて、響いている音を聞くわけです。ここで、頭の中にコオオオオーーンとなっているその音程の記憶を、こぼさないようにしながら、音叉を下に置いて、今度は、バイオリンを手に取ります。弦を弾いてポーンと音を出します。その音と、さっきの音叉の音程を比較します。おっと、バイオリンの方が、音叉より低いようです。では、早速、ペグをキリキリと巻きます。音程が高くなりました。その状態で弦をもういちど弾きます。ポーン。さぁ、その音は、最初、音叉で聞いた音と同じですか? まだずれているような気がしますか? というか、もう既に、最初の音叉の音程の記憶がなくなってませんか? しょうがない。そこで、またバイオリンを置いて、音叉を手にとってコーン......

手は二本しかないので、音叉とバイオリンは同時には扱えません。で、交互に持ち替えて音を鳴らしながら両者の音程を比較するんですが、これができるのは、音を鳴らす作業をしながら、コーンと鳴った音の記憶を保持し続けられる上級者だけです。普通、初心者にはできません。――じゃあ、まったく調弦の支援ツールになってないじゃん! はい。そのとおり。なので、音叉は要りません。

 と、いうわけで、チューニングメータ(チューナー)を買いましょう。それも、バイオリンのヘッド(渦巻き)の先を挟んで取り付けるクリップ付きのやつです。1000円前後で手に入るはずです。これならば、正しい音を視覚的に把握しながら、両手でバイオリンの調弦作業ができます。

tuner.jpg


さて、具体的なチューニングの手順です。

最初は、2弦から調弦します

別に何弦からチューニングしてもいいんですが、まぁ、無害な慣習なので、従っておきましょう。バイオリンの糸巻きを上にしてみたときに、右から2番目の弦。2番目に細い弦=2番目に高く調律する弦です。これを、Aにチューニングします。

......A?

Aは、音名です。ドイツ式なら「あー」で英語なら「えー」、イタリア式にドレミの歌で言えば、ラッパのラ~♪の「ラ」です。音の高さを表します。物理的に表現すれば440Hz(ヘルツ)。人間の耳にとって最も感受性がよいといわれ、生まれたばかりの赤ん坊の泣き声の音程とも言います(ホントかいな?)。

 

なお、応用編として、緊張感や力強さを表現したい場合、全体をやや高めに調弦することがあります。例えば、2弦A=442Hzといった具合に。これは、弦の選び方の一連のエントリでも書いたとおり、弦の張力を強めて、剛性の高い状態にするためです。文字通りテンションの高い張りつめた演奏ができます。A=442Hzくらい高めにチューニングする程度なら、まぁ問題はないのですが、ギターのように、半音、一音と高くチューニングするのは避けましょう。バイオリンは、もともとギターより1オクターブほど高い音域で弦の張力を保つ楽器なので、約20Kg重という非常に過酷な力で弦が両端を引っ張っています。例えば、2弦をラではなく、一音高くシに調弦しようとすると、チューニング中に弦が切れればいい方で、最悪の場合は、本体がメリメリっと......。

逆に、昔は基準音が低かったため、古楽器を持ち寄ったアンサンブルなんかは、A=438やそれ以下に設定すると聞きます。材料の強度などの問題で、高い張力だと古楽器に負担をかけるからとも言います。そんなわけで、A=440Hz以下なら、現在の楽器にとって負担はないのですが、当然、音量は小さくなりますし、弦のテンションもゆるくなりすぎると弾きにくくなります。

ま、ここでは、とくに奇をてらわず、A=440Hzでチューニングしておきましょう。

次に1弦をチューニングします

さて、貴方は、無事、2弦をAに調弦することに成功しました。次は、2弦を基準にして、1弦を調弦します。1弦は、最も細い=最も高く調律する弦です。音程はEです。ドイツ式で「えー」、英語で「いー」。イタリア式で言えば「ミ」ですね。

きらきら星による完全5度チューニング

私が初心者のときには、「きらきら星」で合わせるんだよ~って教えられました。今でも、チューニングの際には、無意識に頭の中できらきら星が鳴ります。

きらきら星の出だしの、♪きーらーきーらー♪、の部分は、完全5度の関係になっています。バイオリンは、4本の弦全てを完全5度の関係でチューニングするので、開放(押さえない)で隣接する2本の弦を弾いて♪きーらーきーらー♪になればいいのです。

つまり、2弦は先ほどAにあわせたので、2弦と1弦で、「きらきら星」が出来るようにすれば、1弦は、ABCDE(=5個目で完全五度)で、Eにチューニングされたことになります。で、再びチューナーの表示を見ながら微調整します。

なんで最初からチューナーに頼らないかと言えば、一般的なチューナーは、半音刻みで、一番近い音をターゲットとして誘導するからです。つまり、Eにチューニングしたかったら、少なくともEのプラスマイナス1/4音以内に寄せてあげないと、チューナーが正しく指示(高い低い)を示してくれないからです。そのために、まずは「きらきら星」であたりをつけます。

3弦、4弦の順にチューニングします

2弦を基準に3弦を合わせ、次いで3弦を基準に4弦を合わせます。きらきら星で大まかにあたりをつかんだら、もうチューナーに頼ってしまいましょう。上記で紹介したチューナーを使って実際にチューニングしてみます

まずは、指ではじいてみましょう。

 

慣れてきたら、弓で弾きながら調弦しましょう。

このときは、右手で弓を持ち、左手でテールピースのアジャスタを回します。その間、バイオリンは顎と肩だけで保持しています。

こんな風に。

tuning_with_adjuster.jpg

そんなところですね。

あ、そうそう、前回告知した「2時間で曲が弾けるようになる」初心者レッスン 4/12(土)は、満員御礼で締切になりました。はたして本当に2時間で曲が弾けるようになるのか!? 結果はまた報告します。

続きを読む

友人のエルデ楽器さんに依頼されて、バイオリンのレッスンイベントを開催します。

最初に、企画の目論見を説明してしまいましょう。


●日時: 2014年4月12日(土) 
               13:00-15:00(一回目)
               16:00-18:00(二回目)

●場所: 都内のカラオケ屋 
  ※ 現在のところ、コートダジュール銀座コリドー店を予定しています

●料金: 3000円(税込)  ※ レッスン料金、レンタル楽器料金、レッスン資料、カラオケルーム料金、ワンドリンク料金、以上の全てを含みます

※ エルデ楽器が、トライアルだから無料でいいや、との方針を示したことから、当日、実費(場所代)清算のみの、実質無料となりました。

standard_img1.jpg 
こんな部屋で5,6名で、ワイワイやるイメージです。

●レッスンの概要:

   バイオリンの大体の仕組み(弦の音の構成など)
   
フレットの押さえ方
   
タブ譜の見方
   バイオリンを弾く姿勢(構え方・弓の持ち方)
   
曲の練習
   合奏

>>> エントリはこちら


タイトルにあるとおり、楽器の初心者さんでも、「2時間で曲が弾けるようになる」ようにするのがコンセプトです。従って、バイオリンを弾くのに、絶対に必要な実践スキルのみを2時間にギュギュっと凝縮します。当然、あ・く・ま・で・も、楽しく♪

Q: 本当に2時間でこんなにできんの? 

A: 常識的な感覚に従えば、ギリギリアウトな構成です。

「は? アウトなの?」と、お思いでしょうが、まぁ、無茶です。普通のバイオリンレッスンで、初心者が何をどのくらいやるかは、「バイオリン レッスン 初回」あたりでググれば出てくると思います。上記の内容と、比較してみてください。分かりやすく例えるなら、自転車に乗ったことのない人に、「2時間で乗り方教えるからサイクリングに行こうぜ♪」と言っています。ほら、無茶でしょうが。

それを承知で無茶をする、チャレンジャブルなレッスンと捉えてください。ぶっちゃけていえば、実験的なモニターイベントです。実践パイロットスタディです。

故に、2時間で3000円としました。 ※ 上記のとおり、実質、無料となりました。

この金額には、上記のように、カラオケルームの料金も、ワンドリンクオーダーのための飲み物代も入っています。レッスン用に資料冊子を作って配布します。それも無料です。それから、初心者の人がバイオリンを持っているとは思えないので、エルデ楽器の商品在庫を、レッスン用に出してもらいました。この楽器のレンタル料金も無料です。そうすると、この楽器は、もうお店で正価では出せない上に、使っていれば切れた弦の保守等々でもお金がかかるわけで、この企画自体、多分、大赤字です。が、エルデ楽器は「まぁ、いいや」だそうです。エルデ楽器には大変悪いんですが、涙を飲んでもらい、この料金を通させてもらいました。ははは。実験には金がかかるもんなんだよ。

その代わり、2時間で本当に曲が弾けるようなレッスンができれば、それはフレットバイオリン、ひいてはエルデ楽器の宣伝になりますんで、成功した暁には、おおいに成果の宣伝に協力してあげてくださいな。アンケートかなんかで「喜びの声」のコメントを求めたりするかもしれません。その際は、2時間でバイオリンが弾けるようになった上に、恋人ができて、さらに、背も伸びた、くらいに盛ってあげてください。

ところで、私は、講師を頼まれて引き受けたわけですが、当然、まるっきり勝算なく無茶をするつもりはありません。実は、これまでに何度かトライアルを重ねた結果、ちょっち自信を持っています。その最大の理由は、フレットバイオリンを使う点です。

fret-violin_and_violin.jpg

図のように、バイオリン(上)と、フレットバイオリン(下)には、際立って異なる箇所があります。言うまでもなく、「フレット」の存在です。バイオリン初心者が曲を弾くところまでたどり着けないのは、慣れない指で音程をキープできないからです。そこで、普通なら、正しい音程がとれるまで、いわゆる反復練習をすることになるわけです。毎日毎日、繰り返し繰り返し。これ、修行です。大切かもしれませんけど、つまんないです。

一方、フレットがあれば、押さえる位置が仕切られていますので、それほど精密に指先をコントロールしなくても、簡単に正しい音程がキープできます。音程さえ正しければ、それほどストレスなく「曲を奏でる」ことができます。

曲が弾ければ楽しい! 

これが重要。自転車の場合で例えるなら、フレットバイオリンにおける「フレット」は、自転車の「補助輪」として機能するんですよ。これなら、ご近所のサイクリングくらいなら行けるはず。転んでばかりの反復練習ではなく、楽しくすいすいご近所を走って、先に感覚的に乗り方を身につけてしまう。同じ練習するなら、こっちの方が効率もよさそうでしょう? 

そんな風に、2時間でバイオリンを弾く体験をして、「楽しい感覚」を持ち帰ってもらえれば、ひょっとしたら数年後に、超絶バイオリンがうまくなって一緒に遊んでくれるかもしれない、というのが講師である私のモチベーションです。あと、本当に2時間で弾けるようになる凄いカリキュラムが確立したらヤマハか河合楽器あたりに持ち込もう、とか(笑)

と、まぁ、そんなイベントです。暇だからひとつバイオリンっちゅうもんを弾いて遊んでみよー、というくらいの気構えで来てくださる方なら、どんな方でも結構です。......あ、いや、私より上手い人は絶対来ないでください。

やってみようかな、という方はエルデ楽器のウェブページへどうぞ。またコメント開けますんで、質問があればどうぞ。

今年最初のエントリですね.あけましておめでとうございます.2月ですが.

さて,バイオリンを始めて,そう時間をおかずに最初に困るのが,「弦が切れた!! 張り替えなきゃ」という場面でしょう.

「ここに弦を固定して,こっちに弦を巻けばいいんだろ」

という,見たまんまの理解で,まぁ,OKなんですが,どんなことにも手順やコツがあります.仁和寺にある法師じゃないですが,初めての人は,いきなり動く前に概要をつかんでおくが吉なのです.

まず,一番やってはいけないことを警告します.

弦を全部外してはいけない!

同じ弦楽器――ギター,マンドリン,ウクレレ,琴,などなど――の経験者がよくやってしまうのが,セット弦を買ってきて,弦の全取っ換え! という場面で,まず古い弦を全部外して,新しい弦を一本ずつ張っていくというやり方です.これは,バイオリンではやってはいけません.

なぜなら,魂柱が倒れるからです.

cross_section.gif

上図は,バイオリンを駒の右足あたりで,ちょうど魂柱を脳天唐竹割りするがごとく、駒に対して直角に切った断面図です.バイオリンは,弦の張力によって駒が表板を押し,その下に立ててある魂柱を裏板との間に挟んでいます.つまり,駒も,魂柱も,接着されているわけではなく,弦が緩めば倒れます.駒は,まぁ,見えるところにあるので,弦が無くなれば倒れるのが誰にでも理解できますが,魂柱は f 孔から覗いても,なかなか状態が見えないので,知らないとうっかりやってしまいがちです.

また,バイオリンは,弦4本分の大きな圧力がボディにかかった状態で安定している楽器です.このことを考慮しても,全ての弦を緩めるのはできるだけ避けたいところです.

というわけで,古い弦を一本緩め,取り去り,新しい弦に取り換え,その弦をある程度張り,しかるが後に,次の古い弦を緩め......という段取りで弦を張り替えます.

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で,具体的な張り方なんですが,注意が3つ.

    ①ボールエンド,ループエンドに注意

    ②駒を傾けないように注意

    ③ペグへの巻き方に注意

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① ボールエンド,ループエンド

これは,このエントリじゃなくて,弦の買い方のエントリで書くべきだった.後で追記しよう.

E線(つまり,1弦)の,テールピースに付ける末端には二種類あります.下図で,先端が丸く環になっているループエンド(上)と,丸い金属が付いているボールエンド(下)です.

ball_loop.jpg

これらは,弦のチューニングを微調整するときに用いる「アジャスタ」に弦を取り付けるときのインタフェースです.ループエンドは,爪のような突起にひっかけ,ボールエンドは,スリットの間に弦を挟んで,ボール部分をつっかえさせて弦を留めます.よって,今から張り替えるE線が,ボールエンドなのかループエンドなのか買う前に調べておかないと,張り替えようとした瞬間にギャーとなります.ギャーとなる前に,迷ったら購入を一旦保留して,どちらだったのか確認するのが真っ当な態度だと思います.真っ当でない事情でどっちか分からない場合は,ループエンドを買いましょう.ループエンドは,ボールエンド用のアジャスタにも付けられます(下の動画参照).逆に,ボールエンドは,ループエンド用のアジャスタには付けられません.言っておきますが,弦にかかる張力を考えると,ちょっとした工作でコンバートできるものではありません(ただし,ボールエンドのボールがとれてループエンドになるよ,っていうコンセプトの弦もあります).ちなみに,ADG線は,ボールエンドをテールピースの穴に直接ひっかけます.もし,E線も同様に,アジャスタをかまさずにテールピースに直接つけるなら,ボールエンドを選ぶわけですね.

② 駒を傾けないように注意

弦を張ると,駒は,糸巻きの方向に引っ張られます.逆に,緩めるときは,駒に力はかかりません.つまり,駒にかかる弦の力は常に一方向です.そのため,何も考えずに日々バイオリンを弾いているだけで,駒には徐々に歪みが蓄積し,ある日,張り替えた弦を巻きとっているときにパタリと倒れます.非常にありがちなパターンです.

cross_section2.gif

駒が倒れると,何がまずいのか? 

だから,魂柱が倒れるんですってば.あれ,適当な位置に立っているわけじゃないので,倒れたら専門の業者に立ててもらって,位置を調整することになるんですよ.結構,オオゴトです.気を付けましょう.

もし駒が倒れたら,まず f 孔から覗き込んで,魂柱が無事か確かめます.魂柱はまだ立っている? それならラッキーです.静かに,少し弦を緩めて駒を立て直しましょう.駒の脚の跡が表板に残っているはずですので,そこに合わせて,表板と直角になるところまでグイッと引き起こします.ここまでが応急処置です.そして,違和感があれば楽器を買った楽器屋に連絡ですかね......(魂柱に影響なし! と信じるなら問題なし).え? リペアサービスしてくれるところで買ってない? 知ーらない.まぁ,バイオリン修理を扱っているとこならどこでも.

③ペグへの巻き方

最後に,日常使用レベルで最も重要なことを書きます.

弦の張り方に上手い下手があるとすれば,それは「チューニングがしやすなるように,弦をペグに巻けるか否か」です.動画(6分あります)を見てもらえば,説明に文章を費やさなくてすむ......かと思いましたが,細かい点が分かりにくいので,動画の後に最低限のTIPSを書きます.

動画の中で,弦を外すときに,一気にバン! と弦が緩むのを見て分かる通り,弦の張力は非常に大きい.その張力を保つには,ペグは糸倉の中にネジ込まれて「ぎっちり」固定されなければなりません.そのために,弦は,ペグを中に引き込むように,糸倉の壁に寄せて巻いていくのです.もちろん,そうしてもペグが固定されない,あるいは逆にキツキツでペグが回らないような状況もあり得るでしょう.そうならないように,バイオリン職人は,糸倉の穴径やペグの軸の形を整えて,ちょうど音程が合うあたりでペグがぎゅっと止まるように調整するわけです.

バイオリン職人に調整してもらえない状況で,プレイヤーが出来る対処は,弦の方の長さの調整です.巻く量が多くて弦がギチギチになる場合(これは径の太いG線で起きやすい)は,弦のペグに巻く末端を切って短くしてください.逆に,短すぎる場合は対処不能です.楽器屋へGOだ.あるいは,遊星歯車(プラネタリーギア)内蔵のペグに入れ替えれば,ペグが緩んで回ってしまう問題は解決します.

弦の張り方についてはこんなところかな.

***

友人のエルデ楽器店主に頼まれて,4月12日(土)にレッスンイベントをやります.バイオリンはおろか,楽器を触ったことすらない人を,2時間で曲が弾ける状態にしろ,というミッションを与えられました.まぁ,インポッシブルってほどでもない.フレットバイオリンなら,補助輪付きで自転車に乗るようなものなので,イケるだろー,という感覚です.問題は「何の曲」か,だなー.キラキラ星じゃ,定番すぎてつまらなくない?

先日、ライブでフレットバイオリンを使いました。

その後、この特殊な楽器についての問合せがいくつかありました。特に、「なぜフレットがあるのにビブラートやスライドができるのか?」という疑問が多いようです。で、これに対して、切れ味鋭く、

「気にすんなよ」

と、回答してもいいんですが、せっかくのサイト更新ネタを無下にするのももったいないので、ちょっと考察がてら、言葉を尽くしてみましょう。

***

そもそも、一般的に、バイオリンにフレットがついていないのは何故でしょう? いろいろ回答はあるでしょうが、ひとつは、技術的に困難だからです。

下の動画は、バイオリンを弓で演奏した時の弦の動きを高速度カメラで撮影したものです。

バイオリンの弦は、長軸まわりにねじれて回転しながら、大縄跳びのように、こんなにも大きな振幅でぐるんぐるん動き回るのです! 擦弦楽器ならではの演奏法によって生まれるこの回転が、バイオリンらしい音色を生み出します。そして、このびっくりするほど大きな振幅は、楽器の女王たるこのソロ楽器の、大きな音量を表しているわけです。

さて、ここで注目すべきは、振幅です。この動き回るバイオリンの弦が、関係ないフレットに触れてしまってはいけないわけです。つまり、フレットがある程度以上高いと、振動する弦に触れて、ビビビビとノイズが乗る、いわゆる「ビビる」状態になってしまいます。しかし、フレットが低すぎてもいけません。指で押さえた位置のフレットは確実に、弦を止めて振動の基点を作らねばならないからです。考えてみると、何十分の一ミリといった絶妙な高さのコントロールが必要です。

フレットの形状にも工夫が要ります。指板の上の指の動きを邪魔せず、かつ弦の振動はピッタリの位置で止めるように、フレットの頭は、鋭角過ぎず、丸過ぎずの形状が望ましいでしょう。若干、話は逸れますが、かつて、アメリカ製のフレットバイオリンを触ったことがあります。それは30万円以上する値段で売られており、見かけは艶のある高価そうな楽器でしたが、弾いてみると、指がフレットにあたって痛いのです。で、怪訝に思ってよく見ると、フレットは打ちっ放したまま、エッジを丸めていないお粗末なつくりでした。その手抜きの影響は、一目瞭然でした。フレットの位置で、弦が切れかかっていたのです。

私の所有するフレットバイオリンは、今のところ、上記のようなトラブルには一切見舞われていません。製作者のエルデ楽器は、ウェブサイトにて、フレットバイオリンを生み出すために、15年の研究をしたと謳っていますから、フレットの高さに関しても、形状に関しても、おそらく相当な試行錯誤を経て仕様を決めているはずです。......多分。

viol-pictures.jpg

ところで、同ウェブサイトには、ヴィオール族の古楽器を復刻したという記述もあります。このヴィオールの頃は、フレット代わりに、弦(ガット)をネックに巻きつけていたらしいですね(そのことを知るまで、古楽器の写真を見るたびに、「なんでフレットがグニャグニャ曲がっているんだろう?」と思っていました)。なるほど、同じ弦同士なら、素材の硬さが変わらないし、断面の丸い弦なら、エッジがないので、弦が切れにくいわけです。

閑話休題。

で、要するに、フレットバイオリンにおいては、フレットの高さや形状が、絶妙に調整されている必要がある、ということなんですが、その結果、なにが起きるかというと、フレット機能に"遊び"が生まれるのです。どういうことかというと......、

最近、「フレットバイオリンのレッスン会」なるイベントに何度か講師役で参加する機会がありました。そこで、気が付いたことですが、本当に楽器を触るのが初めてという人は、フレットと弦の関係が分かりませんから、「フレットの間を指で押さえる」と聞くと、恐る恐るフレット間の自由な位置を指で押さえます。その結果、非常に弱い力でヘッド寄りの部分を押さえてしまうことがあります。すると、半音近く低い音が出ます。そう、実は、この楽器、フレットの中で押さえる位置と力加減によって音程が変わるのです。これが、フレット機能に"遊び"があるという表現の意味するところです。

 sweet-spot.jpg

要するに、フレットの中であれば、どこを押さえてもいいというわけではないのです。安定した正しい音程を得るには、押さえるべき"スウィートスポット"が確実に存在します(もちろん、通常の力でそれなりの場所を押さえれば、安定した音程が得られます。しかし、積極的に音を変えようという意思をもって微妙な力加減で指を動かせば、フレット内でも音程が変化します。そのあたり、やはりフレットの高さが絶妙と言わざるを得ません)。

大まかに次の表のように、特性を整理できるでしょう。

pitch_controllability.GIF

表中の、フレットバイオリンとギターとの違いは、フレットの中で指先を動かしたときの音程変化の幅にあります。ギターよりバイオリンの方が、音域が1オクターブ以上高いため、弦長が少し変わるだけで音程の変化が大きいのです。また、ギターは、コードを弾く楽器ですから、複数の弦を同時に押さえて弾いた時にハーモニーが崩れないように、フレットを高めに設定して安定させているのでしょう。ギターは、比較的フレットの"遊び"が少ないわけです。

で、このフレットの"遊び"の話は、最初の疑問、「なぜフレットがあるのにビブラートやスライドができるのか?」に戻ってきます。要するに、フレット機能の"遊び"がビブラートを可能にしているのです。さらに、ギターよりフレットが低いため、比較的なめらかにポルタメントやスライドができるというわけです。

......って言うか、「ギターでも、ある程度はビブラートをかけられますし、スライドもできますよね。その"遊び"の余地が大きいんですよ!」という説明の方が簡単だったわ。

さて,弦の選び方(1)(2)の話題を統合して,具体的な製品選びについて書きますよ.

弦の選び方(1)では,弦の音特性は,「柔らかい」 - 「力強い」という両極をもった軸と,それとは別に,「明るい」という一極の軸で評価できる,という結論をひねくりだしました.

弦の選び方(2)では,弦の芯材に注目して物理的な見地から音を考察しました.それによると,ガットのような軽い素材では,「柔らかい」「明るい」音が得られ,逆に,スチールのように密度が高くて重い素材では,「金属的な」音になりがちであること,それが「力強い」音の延長上にあることを考察しました.

以上を考慮すると,どうやら,弦の密度=重さと音の関係から,「柔らかい」―「力強い」という軸の妥当性がある程度,説明できそうです.それから,密度が低いほど「明るい」音で,密度が高くなるとそれが「力強い」音に変わっていき,もっと密度が高くなると,「金属的な」音になる,というような関係性もほの見えてきます.

なんだ,結局,「柔らかい」「力強い」「明るい」(ついでに「金属的な」)という形容詞は,全部,弦の密度が原因なんじゃないか.......と,弦メーカの努力を無にするような乱暴な結論を下すのは保留しますが,まぁ,まったく無関係ではない,くらいの言い方はできるでしょう.

で,関係が「ある」なら,「柔らかい」―「力強い」軸と「明るい」軸は直交せず,こんな風に斜めにクロスすることになるわけです.「柔らかい」ほど「明るい」,OK?

strings_map.jpg

さて,以上が導入で,今回はここからが本題です.シンセティック・コアのナイロン弦を中心として,上の図に具体的な製品を乗っけていきましょう.

● ドミナント(トマスティック社/Thomastik)

dominant.jpg

基準です.

何が基準かというと,もっとも癖のない,バランスのとれた音特性だと言われています.ただし! この評価は,ガット弦を「本物の」スタンダードとするクラシックバイオリンの観点で下されている点に注意が必要です.ということは,ナイロン弦にしては,「柔らかい」「明るい」ってことなんでしょう.まぁ,いいよ,業界標準みたいなんで,これを以降の弦との比較対象の基準ってことにしておきましょうよ.つまり,図でいえば,「柔らかい」,かつ「明るい」を示す象限のどこかに基準点があるというわけです.

で,このように定番(?)な音特性を持つドミナント弦ですが,ひとつ弱点が知られています.それは,E線だけ,やや「金属的な」音が出る,というものです.ナイロン弦といっても,一般的に,E線だけはスチール弦です.要するに,トマスティック社は,ナイロン弦のADG線はがんばったけど,スチール弦であるE線の音設計には成功しなかったわけです.そこで,ADG線にはドミナントを使用しますが,E線のみ,レンツナー社(Lenzner)のゴールド・ブラカットという製品を利用する組み合わせが,非常に広く使われています.例えば,楽器店では,新しい楽器を仕入れて試奏する際に,とりあえず弦の特性をフラットにするために,このドミナント(ADG)+ゴールドブラカット(E)という組み合わせの弦を張るそうです.

goldbrokat.jpg

このように,基準の定番であるため,この組み合わせのセット弦が,お得な料金で販売されています.コスト・パフォーマンスを考慮すると,個人的にお勧めです.普段の練習用に弦を買う,という状況であれば,とりあえずこれでいいよ.

***

さて,そうなると面白くないのがトマスティック社です.E線をレンツナー社から奪還すべく,新たに「金属的な」音のしないE線を開発します.それが,カーボンスチールを素材にしたE線です.こういう経緯を押さえた上で,店員に,「ドミナント,ただしE線はカーボンスチールのやつ」とか言うと,油断ならない客が来た! とか思われるんじゃないかな.知らんけど.......ところで,私は,このようなエピソードは聞いていますが,実際に使ったことはありません.はたしてカーボンスチール弦は,ゴールドブラカットからE線を取り返せるほどのパフォーマンスを出せたんでしょうか? なんか知ってる人いたら教えてくださいな.

● インフェルド赤/青(トマスティック社/Thomastik)

infeld-red.jpg infeld-blue.jpg

 店頭の表示も,店員の解説も,ネットの情報も,押しなべて,赤は「重厚な」音色,青は「明快な」音色と謳っています.今まで散々考察してきたように,こんな形容はノイズ情報で,まともに取り合っていてはまったく参考になりません.読み替えが必要です.弦の選び方(1)の表を再掲します.

joudouhyoutei.gif

すると,「重厚な」は,「安定」,「落ち着いた」,「ゆったりした」と似ているので,因子Ⅰの<快い弛緩>が妥当でしょうか? 「明快な」は,「明るい」,「さっぱりした」と似ているので,因子Ⅱの<陽気さ>?

こういう表現にしてしまうと,弦の音特性マップ上では,同じ象限に位置しまてしまいます.ようするに,違いを明確に形容するのが難しいゾーンです.違いがない,と言っているんじゃないですよ.違いを日本語で説明しづらい=購入前の調査が無駄に終わるっていってるんですよ.

私なら,個人的な経験に基づいて,この2つの弦をこう表現します.

基準点であるドミナント(+ゴールド・ブラカット)から見て,赤は,より「柔らかい」「明るい」音を出す.青は,より「力強い」音を出す(=比較的,柔らかくなく,明るくない).

● エヴァ・ピラッツィ(ピラストロ社/Pirastro)

evah-pirazzi.jpg

「力強い」音.で満場一致の音特性を誇る弦です.

非常にわかりやすく「力強い」ので,この弦の名前で検索かけてレビューを読めば,ほとんど書いてあることは一致するでしょう.

私はこの弦,一択です.高いけど.

個人的なことを書けば,「柔らかい」「明るい」音を弾きたければ,そのような弓使いにして,明るいメロディを弾けばいい.そういう音創りは,弦に頼るだけの性質のものではなく,技量で十分対応できると思っています.一方,ポピュラー音楽を演奏するときには,切れ味鋭いリズム表現と,ドスの効いた軋みと,パワーで迫るための音量がほしい場合があります.これらは,残念ながら「柔らかい」「明るい」弦では,物理的に対応できない=技量でカバーしきれないと思うんですよ.

伝わるかどうかわからないけど,ギターのピック選択に似ていると思う.柔らかく,しなる薄いピックは,弾きやすいけど,速弾きや強いピッキングには対応できない.ところが,硬い厚いピックは,指で力を逃がす技術を身につければ,柔らかいタッチで扱えるので,対応の幅が広い.

まぁ,このくらいにしておこう.次!

.......

もうナイ!

すまんけど,そうそう弦を張り替えないんでね.切れないし.近年はエヴァしか使わないようにしてるし.......ほいほい浮気するには,ナイロン弦はお高いし!(←趣味の最重要ファクタ)

そんなわけで,ナイロン弦はおしまい.充分だろ.

次は,スチール弦.

● クロムコア(ピラストロ社/Pirastro)

chromcor.jpg

バイオリン弦メーカの老舗が出しているスチール弦ってことで引き合いに出しますが,まぁ,普通にスチール弦の音がします.「力強い」大きな音が簡単に得られます.キンキン金属音がすると言われますが,リズム重視の速弾き系楽曲の中では,まったく影響しません.ブルーグラスなどのフィドラーには,逆におすすめです.

何より,ドミナントより安い.

あ,あと,分数バイオリンには,ほとんどこれが張られているそうです.だから何? という情報ですけど.

● ヘリコア(ダダリオ社/D'addario)

helicore.jpg

ダダリオ社といえば,ギター弦で有名です.個人的にも大好きな良いギター弦を出しています.

さて,こちらの弦はバイオリン用ですが,やや変わっています.スチール弦でありながら,「柔らかい」「明るい」音を目指しています.具体的には,非常に細いスチール素材で,弦の密度を低くしているわけです.当然,トレードオフで,スチール弦の特性である「力強い」音は失われます.それでも耐久性という利点は残るということで,面白い試みだと思いますね.

さてさて,最後に,ここまで書いたなら,作法としてガット弦についても書いておきましょう.決してお勧めはしませんが.

● オリーブ,オイドクサ,パッシオーネ(ピラストロ社/Pirastro)

oliv.jpg eudoxa.jpg passione.jpg

オリーブは,いわずとしれた最高級ガット弦です.高いです.

オイドクサは,オリーブよりさらに「柔らかい」「明るい」音がします.高いです.

パッシオーネは,ガット弦の弱点を克服する,というコンセプトで,最近になって開発された弦とのことで,私は使ったことがないんですが,情報として面白いんで掲載します.何が面白いかというと,ちょうどヘリコアの逆をやっているからです.すなわち,ガット弦でありながら,「力強い」音を目指しています.そうすると,同様のトレードオフにより「柔らかい」「明るい」といったガット弦本来のメリットが薄まるんですね.ジャケットも良い具合に傾いていて天晴なんですが,取材した弦売り場の店員さんは「結局,特徴がなくなって人気もないです」とおっしゃってました.そっかー......がんばれー.

 strings_map-results.jpg

上図は適当だ! 以上!

追記: なんかエルデ楽器が,新作のフレットバイオリンを開発しているらしいですね.ヘリコアやパッシオーネみたいに,新しい試みは成功しても失敗しても見ていて面白いんですが,エルデ楽器の工房長とは知り合いなので,まぁ,成功を願って注目しておこう.......

チューニングの仕方,という記事を書こうとして,順序が違うことに,はたと気づきました.その前に,弦の張り替えがあるな,と.とすると,その弦を買ってこなくちゃな,と.

そんなわけで,バイオリンの弦の選び方について.

さて,楽器店に出向いて,(あるいはネットで検索をかけまくって)弦について調べると,必ず困惑する事態に直面します.まず,ドバーっと種類があります.さらに,それぞれ,どんな特性なのかを調べると,

「明るい」「柔らかい」「きらびやかな」「落ち着いた」「豊かな」「強い」「芯のある」「バランスの良い」「引っ掛かりの少ない」「まろやかな」「金属的な」等々......

どれもこれも曖昧で,粒度も性質も違う形容詞で表現されています.

「こちらは,明るい音がでます.そして,こちらは豊かな音が出ます」などと言われると,ちょっと虫の居所が悪い時には,「ということは,こっちは暗い音で,こっちは貧相な音なんですね」とか言いたくなります.いずれにしても,あまりに雑然としていて,弦の選択にちっとも貢献しているように見えません.本当に皆,あれで納得して買い物してんの? 業界は,もう少し知的な表現方法を模索してもいいと思います!(パン! と机を叩く)

と言っていてもしょうがないので,「もういい.貸せっ! 俺がやる!」という勢いで,ここで,整理します. 

細かい分析手法について,滔々と語りそうになる自分を,ぐっと抑制して,かいつまんで言うと,中村均さんという研究者が,心理学実験によって,音楽に対する形容詞には,4つのキャラクタ(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ)があることを明らかにしています.これを足掛かりに攻めますよ.

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ざっと,4因子.すっきりしたではないですか.(Ⅳに「好き」ってのがあって笑っちゃいますが.なんでこんなの入れたのか質問したいぞ)

さて,ここで議論しているのは,音楽そのものではなくて,「弦の音」にすぎないのだから.細かい多彩な表現は「演奏」に委ねて,弦の特性には,ごちゃごちゃ形容詞を費やす必要はない.この4つのカテゴリで表現すればいい.

おっと,もうちょい圧縮できますね.

「Ⅰ:快い弛緩」「Ⅱ:陽気さ」「Ⅲ:抑鬱」「Ⅳ:緊張・力動性」のうち,Ⅲには,バイオリン弦にまつわる既存の形容詞がひとつも含まれません.そりゃそうだ.好き好んで陰気な音のする弦を開発するメーカがあるとも思えません.それから,厳密には,上記の4つの因子は次元が違うんでしょうが,現実的に考えて,弛緩と緊張は同軸にある逆向きのベクトルと考えていいんじゃないの?

そんなわけで,Ⅰ,Ⅱ,Ⅳのカテゴリから,既存の表現を抜き出して,「音の形容詞から弦を選ぶ評価マップ」の決定版としましょう.

結論: 弦は,「力強い or 柔らかい」と,どれくらい「明るい」かだけを念頭に選べばよい.

characteristics_of_strings.gif

これで,十分にシンプルになった.例えば「厳しい」音,なんてのが出てきたら,要するに「Ⅳ:緊張・力動性」に含まれるわけだから,上記のマップでは,Ⅳを読み替えた「力強い」と見なして判断することになります.どうやっても上記にマッピングできない形容詞はノイズなので,耳を貸さなくていいよ,ってこと.

個人的な経験に基づく主観で補足すると,「柔らかい」ほど「明るい」という相関がありそうです.「力強さ」の前では,音の「明るさ」が際立たないんだと思っています.

もうひとつ念のため補足すると,ここでいう,「柔らかい」とか「力強い」は,弦の素材ではなく,音の主観的な表現の話なので混同しないように注意してくださいな.

......と,弦選びの面白さの一端を垣間見せておきながら,長くなったので,一旦,記事を区切ります.弦の選択の具体的な話は次の記事で.

さて,どんな弓が良いのか? という話です.

まず,結論を言ってしまうと,弓の材料や特性についての知識より,値段を見るのが実践的です.というのも,ここで話題にしている下限の価格帯では,材料の原価が価格に大きく関係するからです.特に,弓は材料が性能に大きく影響するので,すごーく乱暴に言ってしまえば,高けりゃいいのです.

もうひとつ暴言を吐かせてもらうなら,「自分にあった弓を選びましょう」という良く見かけるアドバイスもナンセンスです.既に演奏スタイルの完成している達人なら「自分にあった楽器」を選択できますが,我々のような趣味のプレイヤー(特に今から始める人)は,「自分が楽器に合わせる」が,上達の基本です.結果として「自分にあった楽器だった」(本当は,「自分が,楽器の特性にあった奏法を身につけた」です)となればOK.第一,大量生産品のラインナップから選ぶわけで,たいした選択肢はないってば.とりあえず価格が体現する「ハズ」の,基本性能だけを信じればよろしい.(ウェブでは,たまには過激なことを書かないと,アクセスが増えないと言います.)

しかし,まぁ,上記の「ハズ」部分を確認する上でも,知識は無駄ではありません.以下.

弓の木材の特性は,密度が高くて堅いことです.良し悪しはそこでまず決まります.ブラジル・ウッドが使われることが多く,良いものはその中でもフェルナンブーコというものになります.が,フェルナンブーコであれば,全て良い材料というわけはなく,おのずとピンキリがあるわけで,そんな中,低価格帯の弓に使われる材料のクオリティは推して知るべしです.要するに,材料名をブランドのようにありがたがるのは危険です.(例:○○円でフェルナンブーコ使ってるよ!絶対買いだって!)

カーボンファイバーも材料からみたとき選択肢のひとつになりえます.堅くて,しなやかです.ケアも楽です.欠点があるとすれば,まだ下限価格がちと高いこと(アウチ! ......しかし,これは同性能の木製の弓より高価という意味ではなくて,ある程度の品質以上の製品しか製造されていない,ということです.そりゃ,中国製などに張力コントロール不可能な弓がある等々の例外はあるでしょうけど)と,木と比較してやや剛性が強いことです.剛性については,民族音楽のような,強い表現が多い音楽をやるなら,逆に武器になるでしょう.特に避ける理由は考えつきません.

以上の話を総合すると,要するに,ここではカーボン弓を勧めることになるわけなので,ちょっと詳細に踏み込んでみます.

カーボンファイバ製の弓の特性は:

・加熱成型する「ドライ」と,心棒に巻いて作る「ウェット」の2種類の工法に依存する.「ドライ」の方が強くて上等.

・いずれも木材とくらべて均質(そりゃそうだ).故に,同じ製品ならほぼ同じ性能(木の弓は性能バラバラ).よって,品質を揃えた大量生産が可能.大量生産されれば価格は下がる.

・木より剛直で「しなりにくい」.故に,馬の毛を引っ張る力は木と同程度でも,木よりしならないので,演奏中の弓の操作によって,比較的,張力が変化しにくい.よって,弓のしなりを利用する細やかな表現は苦手.

・その代わり,弓の強さを利用した,大きな音での演奏や,長時間の省エネ演奏が可能.

まとめ:

●カーボンファイバ製の弓は,ドライ>ウェットの2種類あり
●製品ごとに性能が揃っている.たくさん作るほど値段が下がる
●以上より,大量生産品ほど同価格の他製品より良い可能性あり
●小さな力で強い音がでる.しかし,表現力は木より劣る


さて,材料についてはこのくらいにして,直接,弓の性能の話をしましょう.経験上,「重さのバランス」と「堅さ」が良い弓の条件です.

重さのバランスについては,重心の偏りすぎた弓や,重すぎる弓というものに出会ったことはないので,一般に市販されているものは,ある程度の基準を満たしていると考えてよいと思います.私が違いを分かってない可能性もありますけど.

分かりやすいのは,弓の硬さです.木の棒は,馬の毛を張るときの張力に負けない硬度が求められます.逆にいうと,強い音を出したいときに,しっかりと弓を張れないのが悪い弓です.そういう弓は,目的の張力に達する前に木の反りが戻ってしまいます.安~い弓はほとんどこういう風↓になります.

bow-bad.gif

 

 

一方,良い弓は硬いので,馬の毛をしっかり引っ張って(赤い矢印),美しいカーブを保っています.

bow-good.gif

もちろん,見た目が問題なのではありません.悪い弓の問題点を列挙してみます:

1.疲れる

強い音を弾きたいときは,弓を弦にグッと押し付けて弾きますね.このとき張力が足りないと,その分を腕の力で補うことになります.悪い弓で一曲弾くと,腕が強張ってくたくたになります.

2.操作性が悪い

良い弓と悪い弓を比較すると,木の棒と馬の毛との間の距離に差があることがわかります.良い弓はしなっているので,真中付近の距離が短くなります.一方,悪い弓は,この間隔が広がってしまいます.右手は,木の棒を持っているわけなので,馬の毛が木の棒に近いほど,一体感のある操作ができ,間が広がるほど,"遠隔操作"をすることになるので,演奏の精度が落ちます.

3.すぐだめになる

毛を張るたびに,柔らかい木の棒は反りが戻ってしまい,馬の毛の張力はますます低くなっていきます.すると,張力を高く維持するために,もっと強く馬の毛を張る操作をします.すると,もっと反りが戻ってしまい.......この悪循環で,弱い弓は,どんどん弱くなってしまうのでした.(この悪循環に陥らないように,良い弓,悪い弓に関わらず,練習が終わったら馬の毛を緩めて,弓を歪みから開放してあげる必要があるのです!)

・・・と,まぁこんな感じで,弱い弓には欠点が多い.逆に,良くしなってかつ堅い弓は,感覚的な表現で申し訳ないのですが,吸い付くように弦を「噛んで」大きな音を出します.

バイオリン本体はあくまでも器(うつわ)に過ぎず,プレイヤーが自分の責任で音に関わる部分というのは,ほとんど"弓"の操作ではないでしょうか? 左手も音程を決めたりビブラートをかけたりと,忙しいですが,音作りの大部分は,右手にあると思っています.(余談ですが,この「最初は左手が重要だと思っていたけど,数年楽器を練習したら,本当は右手の技術が演奏の優劣を左右することが分かった」というのは,ギターなど,他の弦楽器でも共通して良く耳にするエピソードです)

そんなこんなで,バイオリン本体だけではなくて,弓にも気を使って,選びましょうという話でした.

***

2013年12月にライブを予定しています.そのライブメンバーを募集しています.ご興味のある方は是非.

さて,アイリッシュ・チューンで良く使われる超高速の♪タカタッという三連符の装飾音を,トリプレット,あるいはトレブリングと言います.これの弾き方について解説します.

まず,参考音源として,トリプレットで紹介したものを再掲します.

で,この記事では,この【 Dinky's Reel 】の中で使われている,冒頭のトリプレットについて,ポイントを書きますよ.

まず,リズムについて,復習しておきましょう,

リールのリズムは,スッチャッ・スッチャッと,2拍目と4拍目の「チャ」を強調する4拍子です.ってことは,ここではリズムの1拍目にトリプレットを弾き,その次に強調の2拍目が来ることになります.つまり,ポイントは,弱拍でトリプレットを弾き,強拍が後に続く,というパターンってことですね.

1拍の短時間にトリプレットをねじ込むので,感覚的に,弓を3回上げ下げして3つの音を出すというより,ワンアクションで,ピカッと瞬間的に終わらせるニュアンスになります.そして,2拍目は,強調したい音なので,ダウン・ボウイング(下げ弓)で強く弾いてリズムをつくりたいわけです.そして,このフレーズのニュアンスを考えると,1拍目のトリプレット部分と2拍目の強調音を,分離させずに滑らかに繋げて,シャッフルの「タメ」を作りたいのです.

というわけで,ここは,個人的に,こういうボウイングが表現しやすい.

            (↓↑↓)-↓↑

つまり,ダウンでトリプレットを弾き始めて,その後,弓を返さずに,スラーで次の音に繋げるフレージング.

上に比較的ゆっくりと該当部分を弾いた音源を掲載しました.前半3つがトリプレット.そして,ダウン・ボウイングのスラーで次の音を繋げる,というやつですね.で! その音の強弱変化が下の図です.横軸に時間,縦軸に振幅をとっている,いわゆる音のスペクトルですね.赤い矢印がトリプレット,そして赤丸で囲んだ部分が,2拍目の強調部分です.

シャッフルを効かせたトリプレット表現

さて,リズムの強弱を考えると,1拍目のトリプレットは,2拍目より強く出すぎてはいけない.よって,赤い矢印のトリプレット部分は、無駄な動作や力を極力省いて,さりげなく,小気味良く,引っ掛ける.装飾なので,過剰に音を出さず,リズム優先で.スラーの前半(先ほど表した(↓↑↓)-↓↑の「-」部分)で少しリズムを「タメ」て,赤丸のついた強調部分でシャッフルのアフター・ビートを表現する,というわけです.

軽くて早いトリプレットと,シャッフルの「タメ」で,曲のしょっぱなからケルティックな世界に引きずり込みましょう.ちなみに、例題曲の演奏の方は,自分で設定したギター伴奏の速さについていけず,お手本としてはリズム表現がイマイチでした.すまん.

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